ヴィクトル、73歳=
報道写真写真プロジェクト「オルドゥシカ(Oldushka)」が始まったのは2011年。シベリアの都市オムスク出身の写真家イーゴリ・ガヴァル氏(29)は、モスクワおよびサンクトペテルブルクの通りを歩くおしゃれなお年寄りたちを撮影した。その後ブログとなり、今は同じ名前のモデル事務所へと成長している。60~78歳のモデルはここ2年、ロシアのファッション誌に登場したり、ファッションブランド「キリル・ガシリン」の広告塔になったりしてきた。
「これには私の家族の存在と専門が大きく影響した。私の2人の祖母はいつでも身なりをきれいにしていた」とガヴァル氏。ガヴァル氏は装飾家で、オムスク大学の隣の衣装デザイン学部のことにもいつも興味を持っていた。
ロシアのレナータ・リトヴィノワ監督の映画も、インスピレーションの源になっている。エレガントで怪奇な年増の女性が存在感を放っている。「誰もが60歳でハリツヤがあって、自然の眉毛と白髪を維持できているわけじゃない。モデル業界では、自然な特徴、自然さと環境がとても大切」とガヴァル氏。
リュドミーラ、62歳
事務所には現在、7人のモデルがいる。発掘したのはガヴァル氏自身。通りで声をかけ、撮影し、招待した。モスクワ出身のリュドミラ・ブラシキナさん(63)もその一人。元エンジニアで、現在モデルであるブラシキナさんは、デニムパンツをはき、フィットネスクラブに通っている。写真よりも、撮影作業に楽しさを見いだした。「人に注目されることが嫌いだったの。コンプレックスで悩んでいた。でもメイクアップアーティストや写真家と仕事をするのは楽しかった。客観的に見ているから、私のことをよく知っている。何を言われても同意してるわ」
ブラシキナさんの美しさとスタイルの概念は独特だ。「テレビで見るような基準に合ったモデルが必ずしも必要なわけじゃない。人は皆違うものだから。老いていてもきれいでいたいし、そう人から思われたいものなの」
ニーナ・トルシナさん(72)は、好奇心からモデルになった。「おもしろいアイデアなんてめったにでてこないもの。生活って結構ワンパターンだし。人からお手入れしてもらって、服を着せてもらうのはとても楽しい」
欧米では、お年寄りをモデルに起用することは新しくないが、ロシアでは様子見が始まったばかり。ランバン、セリーヌ、デルボー、MACは2010年初め、70~80歳代の女性を広告キャンペーンに起用した。最近行われたパリコレでは、日本人デザイナー高橋盾が、2016/2017秋冬コレクションの「アンダーカバー」で、シニアを登場させた。
ボリス、77歳
オルドゥシカ事務所のモデルは今のところ、モスクワのファッション・ショーには招かれていない。ファッション誌「アリュール」のコラムニスト、アレクセイ・ベリャコフ氏は、もったいないと話す。「主催者の先見性が欠如しているということ。20歳代のモデルの中に60~70歳の女性が加わったら、すごく効果的なのに!」
「このようなモデル事務所は良いアイデア。優しさあふれる社会事業と言いたいところだけど、お年寄りが特別な存在になりつつある世界的なトレンドを踏まえる必要がある。欧米の雑誌では、お年寄りの女性に今、一番需要があるのだから。立派なビジネス」とベリャコフ氏。
ブログ「オルドゥシカ」は2012年、イタリア系ブランド「ユナイテッド・カラーズ・オブ・ベネトン」から、ロシアの高齢者の問題にスポットを当てた社会事業として、5000ユーロ(約62万5000円)の補助金を受け取った。計画通り、資金はプロジェクトの被写体の人生談がついた、写真アルバムの製作にあてられる。
ガヴァル氏にとって、これはビジネスというより、ファッションと社会的な側面が融合する生活である。「老いはすべての人の問題。子どもは我々の未来と言われるけれど、決してそうではなくて、子どもは生まれたばかりで、親は先に老いていくのだから、未来は子どもではなくて老人」
オリガ、70歳
ガヴァル氏はモデル事務所を設立できたこと自体がすでに一つの達成だと考える。「このプロジェクトをまじめに受け止めてもらえるとは思ってなかった。モデルの一人である70歳のオリガは、ロシアのブランド『キリル・ガシリン』の春夏コレクションの広告塔になった」。モデルにとって、オルドゥシカは主要な収入源ではない。「これはフリーランスのようなもので、新しい自分を試す機会。多くのモデルにとって撮影には治療効果があり、自分にもっと自信を持てるようになる」とガヴァル氏は話した。
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