Lori/Legion Media撮影
ロシアでは最近まで蒸留飲料は、個人用にのみ製造することができた。これを製造するのは、およそ数千人、蒸留飲料のサイトで商品を分かち合う人たちだけだ。ロシアの小さな集落について言えば、そこでは個人で消費したり、非合法で販売するため、人びとはしばしばこの製造に携わる。
穀粒酒とは蒸留酒のことであり、その製法は、イタリアの蒸留酒グラッパや、フランスのリンゴ原料の蒸留酒カルバドスに似ているが、原料にはライ麦、より正確に言えばライ麦の麦芽が用いられた。ライ麦は糖分を少し含んでおり、それが発酵過程での中心的な役割を果たす。糖分量をふやすため、穀粒を発芽させて麦芽を用いた。この発芽したライ麦をイースト菌と一緒に浸すと、ビール状の飲料ができ、銅製蒸留器を使って、これを二度蒸留すると、穀粒酒が出来上がった。同じ製法がウィスキーを作るのにも使われるが、穀粒は大麦が使われる。
質を向上させるため、それをさらに精製した。精製の仕方は多くあるが、最も一般的な精製法は4つ。木炭による精製(これが最も一般的)、冷却による精製(不要物はみな凍るが、アルコールは凍らない)、牛乳による精製、卵の白身による精製だ。
果物や薬草を浸した穀粒酒をもう一度蒸留した。この種の飲料を総称して「ウォッカ」と呼んだ。飲料の種類は豊富で、どの地域も、それぞれ独自の「ウォッカ」を作った。浸酒(糖分を加えることなく、何かを浸した穀粒酒)、果実酒(糖分を加えた浸酒)、ラタフィア酒(果汁を加えた果実酒)、リキュール(糖分を非常に多く含んだ濃縮果実酒)などの「ウォッカ」である。
現代で言うウォッカは、水で希釈したエチルアルコールで、これは工業的手法で作られ、精製されたもの。これが正式に現れたのは、ずっとあとの1936年だ。
現代のウォッカは、ふつう、つまみの肴と一緒に、ひと口で飲まれる。一方、独自の味をもつ穀粒酒は、ちょうどコニャックや、あるいはシングルモルトウィスキーを飲むときと同じように、何回かに分けて飲まれる。
アルコール飲料の生産を管理するため、国家はすでにピョートル1世の時代に、アルコール計なしに良質の製品を識別し、製品を薄めようとする試みを防止する方法を考え出した。穀粒酒を加熱し、これに点火して、その半分が燃え尽きたなら、それがポルガール(半焼尽酒)と呼ばれた。燃え尽きる量が半分以下、あるいは半分以上の場合は、再加工に回された。現在、ロシアの業者が「ポルガール」という名の飲料を生産しているが、ロシアでは商業用にこれを生産することはできなかったので、ポーランドで生産している。
ロシアの飲料の多様性はウォッカと穀粒酒にとどまらない。ルーシ(古代ロシア)で主要なアルコール飲料のひとつがハチミツだった。ハチミツは太古から知られており、古代ゲルマン人、スカンジナビア人、リトアニア人など、中部ヨーロッパの大半の民族で知られていた。ハチミツのアルコール度数は葡萄酒より何倍も高かったことを史料が伝えている。ハチミツは、煮立てて濃縮ハチミツを作り、ワインと同じように、しばらく寝かされた。ハチミツには、煮立てハチミツと寝かせたハチミツの2種類があった。寝かせたハチミツというのは10~15年以上寝かして、(コケモモ、キイチゴなどの)漿果の果汁を加えたハチミツの自然発酵の結果だった。16世紀の公侯の宴会で、35年物のハチミツが出された例が知られている。
大人数の集まりには、より廉価な煮立てハチミツが作られた。現代ではメドブーハというハチミツ酒がこれに似たものと考えられている。メドブーハはアルコール度数の弱い飲み物であり、すでに国内販売が許可されている。
現在、クワス、とくに容器に入れて商店で売られているクワスは、アルコールを含まない飲料とされている。しかし、田舎で個人消費用としてクワスが作られる場合、クワスの質と度数はそれとは異なるだろう。クワスは、パン、しばしば、さらに焼きを加えたライ麦パンと、水を注いで寝かせたイーストから作られる。容器として使われるのは20~25リットルの樽。飲料の利用規模に応じて、この容量に水を注ぎ足し、数日後にさらにパンを加えると、また食卓に出すことができる。こうして作られたクワスは、アルコール度数の弱いビールと同じくらいの度数がある。
11~12世紀の史料でたびたびビールが言及されている。このビールという言葉は、最初はあらゆる飲み物を意味していたが、のちにアルコール飲料をそう呼ぶようになる。だがこれは、現代で言うビールではない。ルーシ(古代ロシア)ではビールは「オール」または「オルス」と呼ばれていた。これは大麦だけで煮沸するのではなく、ホップと、ヨモギ、オトギリソウなどの薬草を添加して煮沸する。のちに「オール」はビールと同一視されるようになった。
*資料作成にウィリアム・ポフレブキン著『ウォッカの歴史』を使用した。
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