手作り感いっぱいのコスチューム

ロシアのコスプレイヤーは、11月末を今から首を長くして待っている。毎年恒例の日本文化の祭典「Jフェスト(J-Fest)」の一環として、モスクワで全ロシア・コスプレ大会が行われるのだ。ここで勝てば日本に行くことができる。ロシアNOWがロシアのコスプレの特徴を探った結果、国民性がよく現れていることがわかった。それは陽気で、仕上げるのは最後の土壇場だが、常に即興的であることだ。

わずか10年でロシアのサブカルチャーに 

 コスプレはアメリカやヨーロッパでは真新しいものではないが、ロシアではまだまだエキゾチックなイメージがある。ロシアにコスプレが現れたのは、西側諸国よりも遅い1999年。そしてロシアにおける日本文化の人気のピークは、2000年代半ば。この時までに、興味本位で集まっていた小さなグループも、フェスティバルを開催できるほどの、数百人の会員を持つ立派な団体に成長した。

 ロストフ・ナ・ドヌ市のウサギさんは、ロシアの複数の日本文化関連フェスティバルの主催者兼司会者。ウサギさんがアニメについて知ったのは、ロシアの大都市でアニメ愛好家の共同体が勢いよく生まれていた2000年だという。

 「当時珍しかったアニメを発掘して、ビデオカセットに録画して、他の街に住むネット上の知り合いにメールで送っていたのは、主に大学生ぐらいの年齢の男子。アニメ・クラブがたくさんできて、全ロシア日本アニメ・漫画愛好家協会の支部も広がっていった」。

 

仮面舞踏会と勘違いされる 

 ロシアでもっとも有名なフェスティバルの一つが初めてお目見えしたのは同じく2000年、モスクワ市の南500キロメートルに位置するヴォロネジ市でだった。わずか数十人ほどがコスチュームを縫い、身にまとった。これが何かを知らない住人は、「仮面舞踏会」だと話した。

 アニメ・フェスティバルの主催者で、ヴォロネジ市のアニメ配信会社「リアニメディア」の現場責任者を務めるアルチョム・トルストブロフさんはこう話す。「今思えばおかしな話だが、コスプレ・ショー(今ではどのアニメ・フェスティバルにも欠かせないショー)が初めてプログラムとして現れたのは、わずか2002年のこと。それまでは大画面でアニメを上映するだけだった」。

 アニメ・フェスティバルは現在、ほぼすべての大都市で行われている。モスクワとサンクトペテルブルクにいたっては、年間10回以上ある。コスプレイヤー のマリヤ・グリゴリエワさんは、役を演じながら舞台に立つのが好きなだけだと話す。「これは一種の体への刺激で、気分を高揚させる。普段の生活にはないもの」。

 

手作りへのこだわり 

 だがわずか5~10分の舞台のために、長期間の準備と練習が強いられる。ロシアのインターネット上に存在する数千のグループが、いかにして板や管の切れはしで未来的な武器を手作りするかといった情報を提供し、初心者のコスチュームの作り手を支援する。ヨーロッパのコスプレイヤーは、淘宝やイーベイなどでコスチューム用の材料を購入することを好むが、ロシアの達人は自力で発光ダイオードを確保し、鎖かたびらを作り、エクソスケルトン(外骨格)を組み立ててい る。

 もっとも難しいのは適当な材料を見つけることだと、コスプレイヤーのマリ・チャドワさんは話す。「コスプレイヤーの助けとなるのはホームセンター。リノ リウム、床用シーリング、便器用蛇管、水道管用混合栓、ガスボンベ用圧力センサー、さらに断熱パッド、竹マットなどもそろう」。

 かつてロシアに存在していた男子コスプレイヤーの不足という問題は、現在はそれほど深刻ではない。今でも男子に扮する女子はいるが、それは男子がいない からではなく、自分の大好きなキャラクターになりきりたいからだ。荒々しい男子キャラは現在、確かに男子が演じていて、筋肉の絵をつけた女子はいなくなった。

 

最後の土壇場になるのは国民性? 

 参加者の選抜は年々厳しくなっており、コスチューム、シナリオ、演技力の質の基準も高まっている。それでもロシアのコスプレイヤーが仕上げを終えるのは最後の土壇場だ。

 コスプレイヤーのワシリサ・リサさんはこう話す。「そのせいで、初心者のコスプレイヤーを不安にさせる話もある。両側にガムテープをはっただけの、段ボール製の大きくてかっこいい武具を着たコスプレイヤーが会場に到着して、人でごったがえすホールの中を、誰ともぶつからないよう慎重に進んでいた。すると向い側から女子のコスプレイヤーが歩いてきて、すれ違いざまに肩で武具をひっかけてしまった・・・武具はひっかかったまま、観客席まで持っていかれた」。

 外国とは異なり、ロシアではコスプレが仮面舞踏会の要素を取り入れた漫談のようなものととらえられているため、コスチュームそのものよりも、舞台の内容 が重視される。そのため、普通の服を着て登場し、アネグドート(お笑い小話)を始める参加者がいても、横目で見られることはない。

 脚本家、コスプレイヤー、演出家であるガリーナ・エレシナさんは、観客を知り、観客のために演技することが重要だと話す。「どの観客にとってもおもしろくておかしいものでなければならない。舞台が20分も続いたり、同じような人が、同じようなコスチュームで、比較的単純な舞台をくり返したりすることも考えればなおさら」。

 

筋書きのないドラマ 

 舞台では必ずハプニングも起こる。違う曲が流れたり、マイクの音がでなかったり、コスチュームの付属品の一部が外れたり。だが技術的な不調があっても、 ロシアのコスプレイヤーは気にしない。他のメロディーが流れたなら、その曲で踊ればいいと考える。また構造がバラバラになっても、それが演出の一部であるようなフリをするのも余裕だ。

 条件が整っていないため、ロシアのコスプレイヤーは文字通り無から(ガムテープから)真の芸術作品を生みだすよう、鍛えられている。とはいえ、その”芸 術”に目を凝らしたり、触ったりしてはいけないが。ショーの中身が、細かい部分よりも重要になっているのは、このような背景があるため。日本からロシアに伝わったコスプレは、コスチュームの正確さではなく、感情、カリスマ、ユーモアが重要な役割を果たすエンターテーメントに変わったのだ。 

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