日本映画が審査員特別賞に

大森立嗣監督の「さよなら渓谷」に審査員特別賞 =Press Photo撮影

大森立嗣監督の「さよなら渓谷」に審査員特別賞 =Press Photo撮影

第35回モスクワ国際映画祭は、6月20日から29日まで行われた。ニキータ・ミハルコフ実行委員長によると、8日間で7万2000人が試写会に訪れたという。48ヶ国の364作品が上映され、うちロシアの3作品を含む16作品がコンペティション部門に参加した。大森立嗣監督の「さよなら渓谷」は、審査員特別賞を受賞した。

最高賞はトルコのエルデム・テペゲズ監督の「塵」 

  映画祭の最高賞「金の聖ゲオルギー」は、トルコのエルデム・テペゲズ監督の「塵」が受賞した。この映画は病気の娘と年老いた母を養うために、何でもいい から仕事をしようとする、イスタンブールに住む無職の女性の話。飢えと絶望が極限に達した時、自分の腎臓を売ることを決意する。制作側の新趣向と現実感のバランスが取れていて、見る人の心に響いた。主役を演じた女優のジャレ・アリカンさんは、感情と内部の強いエネルギーを表現しながら、ミニマリズムの中で精 神的な限界を演じ、最優秀主演女優賞「銀の聖ゲオルギー」を受賞した。

 最優秀監督賞と審査員特別賞として、他の2つの「銀の聖ゲオルギー」が、アジアの参加者に贈られた。最優秀監督賞に選ばれたのは、サイコスリラーなのに優しい映画「レバノンの感情」を撮影した、韓国のチョン・ヨンヒョン監督だ。この映画は、いかにして善人の非論理的な行動が、世界の喜びとなるのかを描いている。

 

大森立嗣監督の「さよなら渓谷」に審査員特別賞

 審査員特別賞は、洗練された悲しい心理スリラー映画「さよなら渓谷」を撮影した、日本の大森立嗣監督に贈られた。「人間関係への深い理解と洗練された演出」が評価された。

 「さよなら渓谷」は、吉田修一さんの同名の小説を映画化したもので、主人公の男女が、幼児の殺人事件をきっかけに、自分たちの過去を直視し、純粋な愛とは何かを悟る。真木よう子さん(30)と大西信満(しま)さん(37)が夫婦を演じた。 

 その他特筆すべき映画としては、キーラ・ムラトワ監督の傑作「永劫回帰」がある。この映画の名称は、かつて起きたことはいつか必ず起きるという、ニーチェの思想だ。ムラトワ監督は2人の女性を愛する1人の男性について語っている。さまざまな年齢、性格、活動をする複数のカップルが、観客の前で同じシーンをくりひろげる。男性は同窓生のもとへ行き、いきなりさまざまな疑念をその女性にぶつけはじめる。両方の女性を愛している場合、どちらと一緒にいるべきなのか。映画が終わりに近づくと、これらのシーンすべてが、潜在的な投資家に見せるための、プロデューサーの試作映画にすぎないことがわかる。 映像の中の苦悩は、涙と資金を頂戴するための手段にすぎない。

 

何かに目覚める自由な人間たち 

 他にも優れた2作品がある。それはポーランドのヴォイツェフ・スマルジョフスキ監督の「道路パトロール」と、ロシアのユーリー・ブィコフ監督の「少佐」 だ。どちらの映画でもストーリーの中心は警官になっている。警察機構の一部になった人間が、機構から離れ、人間に備わっている公正への欲求を思い出すことがどれほど可能なのかについて語っている。この問題は一義的ではないが、悪に立ち向かうことは現実的に可能だと観客に思わせる。

 流血の衝突だけでなく、他の方法もあると示したのが、ディーデリック・エビンゲ監督の感動的かつ詩的な映画「マッターホルン」だ。主な娯楽が牧師との罪 についての会話という、小さな町の控えめな住人が主人公である。視野が狭く、退屈で、“正統的な”この住人自身に対する予期せぬ反乱が、彼との結婚を夢見る地元の変わった男との不可思議な友情から始まってしまう。この住人はすべての恐怖やしきたりを覆してこの男と結婚し、地元の教会社会を仰天させる。

 何かに目覚め、しきたりを破り、現状に対して自由な意思を示す人物が、モスクワ映画祭の中心的存在となった。 

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