ボリス・アクーニン=ロシースカヤ・ガゼータ/ビクトル・ヴァセニン撮影
ボリス・アクーニン氏(55)はグルジア生まれで、本名はグリゴリー・チハルチシビリ。筆名は「悪人」に引っかけたもの。日本文学研究者として出発し、三島由紀夫の翻訳や『自殺の文学史』 などのユニークな評論がある。その一方で、1998年より作家活動を始め、探偵小説の 『エラスト・ファンドーリンの冒険』シリーズは大ベストセラーとなった。既成のジャンルにとらわれない作品世界を追求している。
―あなたは著名な日本文学研究者でもあります。日本に興味をもった理由は?
「日本には少年時代から興味をもっていました。ほとんど宇宙人みたいな特異な人たちが住んでいて、年がら年中花見をして、切腹をしてると思ってましたね」
―日本人とはどういう人たちだと思いますか?
「私はいわゆる国民性と いうものをあまり信用しません。あらゆる一般化はマユツバだと思っています。
しかし、あえて平均的日本人とロシア人を思い描いて、比べてみれば、前者は規律を守り、後者は自主的。前者は集団で本領を発揮するが、後者は個人プレーが得意。前者はより正直で、体面を重んじ、仕事ができるが、後者はより創造的で、世界に対して開かれており、日本人のような精神的マゾヒズムは希薄。
一つ共通点があります。両者とも『これで十分』ということがなく、限度を知らないことですね」
―率直に言って、日本人のロシアに対するイメージはあまりよくありません。
「 10 年前はロシア人も日本人にかなり反感と猜疑心を抱いてました。日本のことはほとんど何も知らなかったのですが、ここ 10 年で『日本ブーム』が起きました。
ロシア人は、日本の映画、マンガ、文学、風俗、特に和食が大好きになりました。日本語学習も流行りだしました。そして日本は、突然、もうよそよそしい国ではなくなったのです。
ある国の文化をよく知れば好きにならずにはいられないものです。もし何かのきっかけで日本でロシア・ブームが起きれば対ロ感情も変わるでしょう。そうなることを心から願っています」
―あなたの推理小説は異常なほど大ヒットしました。多くのロシア人が求めるものがそこにあったのでは?
「たぶん、主人公エラスト・ファンドーリンでしょう。ロシアの大衆文学にはこんな人物はいません。
私は、自分がいちばん好きな歴史的タイプをいくつか混ぜ合わせて、この人物を創ったのです。ロシアのインテリ、日本の侍、英国紳士、儒教的な君子。かなり強烈なカクテルができあがり、読者は酔っ払ってくれました」
―現在、世界は激動しつつあります。アジアでも米国の影響力が相対的に低下する一方で、中国が超大国となりました。ロシアと日本はどのような関係をもつべきでしょうか?
「露・日・中が主なメンバーになって、『太平洋同盟』のようなものができる時を待ち望んでいます。三国には多くの共通点があり、それぞれがユニークなものをもっていて、互いに補い合えると思います。この同盟は、大西洋諸国と良い意味で競争していけるでしょう。もちろん、これはまだ先の話です。まず政治改革をやって、三国が『同じ言語』で話し合えるようにしなければなりません」