ウクライナ東部で再び衝突

ペトロ・ポロシェンコ大統領(中央)、東ウクライナ、2016年12月5日=

ペトロ・ポロシェンコ大統領(中央)、東ウクライナ、2016年12月5日=

ロイター通信
 集中的な砲撃、数十人の死者、オーストリアでの緊急会議...ウクライナ東部の戦闘はなぜ再び激化したのだろうか。

 ウクライナ東部の情勢がここ数日間、再び悪化している。先月29~30日にウクライナとドネツィク人民共和国(DNR)の戦闘が発生。数十人が死亡し、DNR近郊は停電した。

 どちら側が先に集中的な砲撃を始めたのかは、いまだにわかっていない。だがこれにより、ウクライナのペトロ・ポロシェンコ大統領はドイツ訪問を切り上げ、ウクライナ東部情勢正常化作業部会の緊急会議を招集し、国連事務総長に連絡することとなった。今回の衝突で、非難の矛先は、いつも通り、ロシアに向いた。「ロシアに、直ちに敵対行為を止め、停戦に厳密に従うことを要求する」と、ヴォロディミル・エリチェンコ・ウクライナ国連大使は述べた。欧州安全保障協力機構(OSCE)常設理事会は先月31日、緊急会議を招集した。

 すべてが起こったのが、ウラジーミル・プーチン大統領とアメリカのドナルド・トランプ新大統領の電話会談の翌日だったのは偶然なのか。トランプ新大統領は、ウクライナ紛争とは距離を置きたい考えを何度も示している。戦闘の激化は注意を引く手段だという意見がロシアにはある。とはいえ、DNRも反応している。そしてこの先ずっと反応する可能性がある。凍結された紛争ばかりが残り、ミンスク和平合意は崩れている。

トランプ氏はそんなゲームはしない

 戦火の下に置かれたのは、アヴディイフカ市(市近郊には緩衝地帯がある)とDNRの首都ドネツィクの間の領域。アヴディイフカ自体はどっちつかずで、戦闘が激化する前はウクライナの管理下にあったが、数日後に義勇軍側に移った。アヴディイフカの住民はこれまでと同様、暖房、電気、水のない状態で暮らしている。市内には現在、OSCE監視団によれば、戦車と榴弾砲があるという。

 死者と負傷者に関するデータは大きく異なっている。ウクライナ側はわずか1日で71回の砲撃を受け、3人の兵士が死亡したと試算している。一方、DNR国防省は、アヴディイフカでの戦闘でウクライナ側の兵士78人以上が死亡し、76人以上が負傷したと発表した。ウクライナ軍はDNRに1日で迫撃砲と砲弾を2411発打ちこんだ、とDNR政府は話しており、またウクライナ軍は勧誘した義勇兵の助けを借りて義勇軍部隊でテロを起こす準備をしていたという。

「そこで実際に何が起こったのか、誰が火薬樽の導火索にマッチの火をつけたのか、誰も知らない。そこには常に爆発危険性があった。双方がミンスク和平合意を順守しなかった」と、「ウクライナ政治」基金のコンスタンチン・ボンダレンコ理事はロシアNOWに話す。アヴディイフカの状況は遅かれ早かれ起こっただろうし、アメリカの新政権やOSCEの注意を引きたいという気持ちはこことは関係ないという。「そんな相互関係を探す意味は、おそらくないだろう。トランプ氏はそんなゲームはしない。そしてウクライナ政府も当然ながら、それを知っている」とボンダレンコ理事。

膠着状態の先に

 ウクライナが東部の問題を議題に戻したいと思っているがために起こったのだと、多くの人が考えている。そうでなければ、ウクライナ政府が和平合意を履行したがっていないがためだ。「ウクライナ軍の支援を受け、ウクライナ軍の参加のある、このような過激な行動は、ミンスク和平合意の目的と課題を損なう。(中略)また、このようにして非常に不安定な国内情勢に注意を引こうとする試みのようだ」と、ロシアのドミトリー・ペスコフ大統領報道官は「コメルサントFM」に話した。

 アメリカは今日、ロシアで禁止されている「イスラム国(IS)」、シリア、中国、国内問題で手一杯で、皆を飽き飽きさせたウクライナ東部の紛争には手が回っていないと、「高等経済学院」世界経済・政治学部のアンドレイ・スズダリツェフ副学部長は話す。「ポロシェンコ大統領のベルリン訪問と情勢悪化の時期が驚くほど一致している。これはとても疑わしく映る。ポロシェンコには二重のシナリオがあるのでは」

 ウクライナの国内事情は確かに悪いと、ロシア科学アカデミー経済研究所ロシア外交政策センターのボリス・シメリョフ・センター長は考える。改革の成功は微々たるもので、経済は深刻な危機にあり、ポロシェンコ大統領に対する批判は強い。「ウクライナが挑発すれば、東部は即座にのってくる。今日、紛争解決の前提条件は皆無で、状況は膠着状態。だから徐々に陰で糸を引いていく必要がある」

 ウクライナがこの問題に関連してロシアやアメリカの大きな痛手になることはなさそうだと、専門家は考える。「ウクライナ東部はあらゆる攻撃を十分阻止できる。課題はがまん。ロシアとアメリカが和平合意の履行についてポロシェンコ氏に一緒に圧力をかけることを急がなければ、ずっと待たされる可能性もある」とシメリョフ・センター長。

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