スタニスラヴ・クラシリニコフ/タス通信撮影
ロシア連邦法「警察について」の改正案は、下院が夏季休暇に入る(7月3日)直前の7月1日に提出された。改正案を作成したのは、下院安全保障委員会のイリーナ・ヤロワ委員長率いる、「統一ロシア」党議員のグループ。夏季休暇により、法案審議は秋の会期まで行われないが、すでに賛否両論が巻き起こっている。
改正案には警察官の権限拡大も含まれている。現行法では、警察官が女性に発砲することは原則として禁じられているが、改正案ではこれが妊婦に限られている。また、テロや人質の防止のために必要性があれば、どのような場所でも発砲できるようになる。
改正案では、警察官が自分自身の懐疑をもとに、承認する書類なしで市民を調べる権利を得る他、車を所有者の許可なしに開けることができるようになる。可決されれば、国家は「警察官への信頼と支持の前提を保証する」という文言が加わる。また、職務遂行時の行動が違法でない限り、警察官は起訴から免除される。
一方で、改正案には追加的義務を警察に課す項目もある。被害者への一次的応急処置および病院への搬送だけでなく、被害者の親族または友人に24時間以内にそのことを通知しなければならない。
武器を使う状況
ロシアマフィア全盛の90年代と今
改正案を作成した議員は、殉職したり、負傷したりする警察官を含め、市民の安全を守ることのみが目的だと強調している。ロシア連邦内務省総局がロシアNOWに提示した統計によると、「警察官および内務省国内軍の軍人で2014年に殉職した者は202名、負傷した者は1945名。2015年ではすでに33名が殉職し、842名が負傷している」という。
弁護士、退役警察大佐であるエヴゲニー・チェルノウソフ氏は、テロの脅威が増している現状を踏まえると、このような改正案は妥当だと話す。「テロや公務執行妨害の防止のため、武器の使用を含めた行動を警察官に許す必要がある。女性がテロや公務執行妨害をすることもある。女性が自爆テロを行った場合、武器を使用しなければならない」
また、チェルノウソフ氏はこう話す。「何があろうと、人でごったがえしている場所で武器を使用するのは、相応のスキルのある特殊部隊だけ。一般の警察官は群衆の中で発砲することはない。ソ連時代から、警察官の心理とは、武器を使用する前に10回考える、である。誤って何かが起こったりしたら、その警察官は詰問されるからだ」
不安視する人権活動家
ロシアの人権状況の評価わかれる
改正案が公開されるとすぐに、警察の権限拡大によって人権侵害の件数が増えるのではないかと懸念を示す社会活動家も出始めた。人権活動家が特に不安を訴えたのは、女性に対する発砲と人で混雑している場所での発砲を許す部分。エラ・パムフィロワ・ロシア連邦人権問題全権代表は、独立系専門家に改正案を精査してもらうべきだと訴えている。「改正案はこの状態だと、深刻な危険性、横暴さが増す可能性をはらんでいる」とパムフィロワ代表はタス通信に話した。
人権活動家で「反拷問委員会」の専門家であるセルゲイ・バビネツ氏は、パムフィロワ代表に同意する。今回の一件に、起こり得る抗議への圧力の可能性を拡大する政府の動きを見いだしている。「社会・経済状況が悪化している状況のもと、国民から不満が噴出し、抗議デモが広がる可能性がある。これを懸念し、政府が改正案で防御にまわろうとしているのではないか」とバビネツ氏はコメルサント紙に話した。
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