レッカー移動屋と戦う運転手たち

セルゲイ・ボビレフ撮影/タス通信

セルゲイ・ボビレフ撮影/タス通信

ロシアのインターネットでは10月、ある男性運転手の抵抗が話題になった。運転手はレッカー移動されそうになっていた自分の車に乗り、そのまま22時間車内に居座り続けた。これほどではなくとも、レッカー移動屋との攻防はいつでも激しい。専門家は現状を変えることも必要だと考えている。

 「マツダ」のピックアップトラックの運転手であるコンスタンチン・アルトゥホフ氏は、自分が有名人になるとは思ってもみなかっただろう。

 10月中旬、モスクワのとある店に行くため、駐車禁止の場所に自分の車を置いた。店から戻ると、自分の車がレッカー車に積み込まれていたため、そのまま自分の車の車内に飛び乗った。ロシアの規定では、車内に乗客がいる車をレッカー移動できないことになっている。

 レッカー移動屋は駐車違反の罰金3000ルーブル(約7500円)と移動代5000ルーブル(約1万2500円)のあわせて8000ルーブル(約2万円)を請求したが、アルトゥホフ氏は支払いを拒否。そのまま22時間、レッカー車の荷台にある自分の車の車内に座り続けた。レッカー移動屋は最後にあきらめ、車を積み下ろした。

 レッカー移動屋であるモスクワ市国家機関「モスクワ駐車空間管理者」は、アルトゥホフ氏を訴える構えだ。

 この騒動は大きく取りざたされ、アルトゥホフ氏はインターネットの英雄になり、パークマン(駐車男)の異名までついた。

 

運転手vsレッカー移動屋

 アルトゥホフ氏の一件の反響が大きかった理由は、長時間車内にいたからというだけではない。モスクワで自動車の運転手とレッカー移動屋の対立はしばしば発生しており、身近な問題だからだ。

 レッカー移動屋の立場はわかりやすい。運転手は駐車規定を守るべきであり、破った場合は自動車を強制的に動かすのみ、と。

 しかしながら多くの運転手は、レッカー移動屋がマフィアのようになり、規定違反よりも罰金稼ぎに必死だと主張している。駐車規定に違反していないのに自動車を移動され、罰則駐車場に故意に長く置かれる(罰則駐車場の駐車時間が延びると、その分支払い額も増える)、車内に運転手がいるのに移動される、といった話は、たくさん掲示板に投稿されている。罰則駐車場には行列ができ、書類の手続きに数時間かかるという話もある。運転手は憤り、いかにして移動を防ぐかというアドバイスを互いに与えあっている。

 

パークマンの今後

 アルトゥホフ氏は居座りを行った唯一のパークマンではない。だが成功しているケースは限られる。

 学生のドミトリー・アファナシエフ氏は移動を妨害し、警察への公務執行妨害罪で裁判所に5日間の禁固刑を言い渡された。アルトゥホフ氏の抵抗が今回成功したことは、他の運転手への刺激となった。

 レッカー移動屋は譲歩しようとはしておらず、アルトゥホフ氏を訴えるために準備を行っている。行政責任だけでなく、「恣意」容疑で刑事責任を問われる可能性もある。

 「運転手(本人および騒動の協力者)は刑法典に違反したため、1万5000ルーブル(約3万7500円)の罰金が科せられるだろう」と、「モスクワ駐車空間管理者」のクセニヤ・ブロドゥレンコ広報担当は話す。

 

変化の必要性

 今回の件はロシア下院(国家会議)でも反響を呼んだ。「公正ロシア」党の議員は、駐車された自動車が他の自動車の流れを妨害していない限り、強制的な車両の移動を禁止すべきだと訴え、法案を作成。だが法案は完成されていないとして、審議されなかった。

 モスクワ渋滞対策センターのアレクサンドル・シュムスキー所長は、法律だけではなく、行政側および市民側の両方の法執行時の行動文化を変える必要があると考える。「モスクワの行政は近年、駐車規定の順守に対する監視を強化し、たくさんの車を移動するようになった。以前は規制を厳しくしながらも見て見ぬふりをしていたが、今はそういうことをしなくなった。その変化に誰もが順応できているわけではない」。運転手は規定にもっと注意深くなるべきであり、またレッカー移動屋は無駄に厳しくすべきではないという。

 権利擁護派のヴィクトル・トラヴィン氏は、ロシアNOWの取材に対し、規則を変える必要性について話した。「運転手が数十キロメートルも離れた違反駐車場に行き、行列に並ばなくて済むように、違反現場で自動車を受け取れるようにすべき」。しかしながら、実際には変化が起こりにくいという。「レッカー移動屋にとって儲けになるため、なかなか変えようとはしないだろう」

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