過激な一面を見せる学校の生徒

Lori/Legion Media 撮影

Lori/Legion Media 撮影

モスクワでセルゲイ・ゴルデエフ被告(15)の裁判が行われている。第263学校で今年2月3日、当時10年生だったゴルデエフ被告がショットガン「サイガ」と小銃を持って地理の授業が行われていた教室に押し入り、教師を射殺し、29人の生徒を人質にとった。生徒は無事だったが、かけつけた警察官のうち、1人が死亡、1人が負傷した。つい1年ほど前まで、学校の銃撃事件はアメリカのニュースや映画の中の話にすぎなかった。だが2月の事件はそれをロシアの現実にしてしまった。生徒の過激化の原因とその防止策について、ロシアNOWが特集する。

 現代の児童、生徒は交流サイト(SNS)に夢中で、人気者になるためなら、犯罪を犯すこともできると、教育者や心理学者は話す。親の注意不足と一般的な怠惰がその原因と考えられる。生徒の過激化を和らげるためには、端末から子どもを引き離し、運動をさせることが必要だという。 

仮想空間 

 最近の生徒はあらゆる方法でSNSの人気者になろうとする。「学校の教室ですべての生徒に注意を向けることは不可能、家では親が忙しくてなかなか子どもを見ることができない。生徒は現実社会で人に気づかれず、リアルな交流をほとんどしていない。誰かを殴った動画などをインターネットに投稿すれば、すぐに注目を浴びて、皆が自分のことを話題にするようになる」と、国語と文学のソフィヤ・チェルナチュク先生は話す。「イイネ!をたくさん押してもらうことが重要で、どんな手段でもかまわない」という。

 暴力的な動画には、「ハッピー・スラッピング」(娯楽のための暴行)という国際的な正式名称もある。ひどい動画はたくさん出回っているが、厳しい罰則はまったく科されていない。14歳以上が刑事責任を負う「殺人未遂」容疑で立件されたケースもあるが、ほとんどは罰金で済んでいる。

 捜査側も、ほとんどの場合、生徒が受ける刑は不定期刑のみであることを認めている。ニジニ・ノヴゴロド市で最近起きた老女への暴力事件でもこのようになるだろうと、ニジニ・ノヴゴロド州の捜査委員会は話している。罰を受けるのは暴力をふるった生徒のみで、撮影した生徒は無罪放免になる可能性が高い。

 チェルナチュク先生はこう話す。「罰せられないという考えが、一線を越えようという気持ちを起こさせる。例えば、ある生徒が私の同僚の先生を侮辱したことがあったが、学校の事務局は生徒側についた。その先生は結局辞職してしまった。せいぜい叱られるだけで、教室では英雄になれると、生徒はわかっている」

 ロシアの検索サイト「ヤンデックス」のデータによると、児童、生徒の間でもっとも人気の高いカテゴリーは「ゲームとIT」。仮想的な世界に夢中になっている。パソコン(ネット)依存については、心理学者が以前からアルコール依存症や麻薬依存症と同一視している。中でもより危険なのはロールプレイングゲーム。生徒が自分のキャラクターの世界をながめ、ある時期を過ぎるとすっかりそのキャラクターになりきってしまうもの。

児童による犯罪件数


ロシア連邦国家統計局のデータによると、ロシアでは昨年、犯罪件数67000件が18歳以下の子どもによって行われた。これは国内の児童・生徒数のほぼ5%である。

 セルプスキー社会・司法精神医学センターのアンナ・ポルトノワ児童精神医学部部長はこう話す。「現実の世界と仮想の世界の境界が消え、生活が何らかの一時的なものに感じるようになる。コンピュータ・ゲームのように、すべて取り戻すことが可能だと感じる。ボタンを押せば、レベルがまた始まると。生徒の自殺やまわりの人間に対する攻撃性はこれによるもの。今やっていることが一生のことだということを理解できない」 

ソ連崩壊後に成長した保護者

 心理学者は世代のギャップについて懸念する。勤続40年の歴史と社会のリディヤ・オルロワ先生はこう話す。「今の生徒の親は、ソ連崩壊後の1990年代に成長した世代。昔の価値が崩壊し、新たな価値が不在だった時代。保護者は良い成績を子どもに与えるよう、先生に強く迫る。保護者会、また校長、それより上のレベルに苦情を言う時にそれをやる。家では子どもに『悪い成績を与えたってことは、ダメな先生』と言う」

 スクールカウンセラーも同様の話をする。「私のところに保護者が来て、先生に対する苦情を言ったことは何度もある。自分の子どもが先生に気に入られていなくて、成績に影響しているから、介入してほしいと。だがほとんどの場合、子どもが嘘をついている。保護者は真剣に状況を確かめようとせず、またその時間もない」と、スクールカウンセラーのエカチェリーナ・ジェルデワ氏は話す。 

課外活動

 学校が終わると、生徒はテレビやパソコンの前に座りっぱなしということが多い。以前はさまざまな課外活動に参加するのが一般的だったが、現在は関心が薄れている。「学校はいろいろ努力している。困難な生徒にはカウンセラーやソーシャルワーカーが対応している。遠足や博物館訪問なども企画されている」とオルロワ先生。

 モスクワでは昨年、サークルの電子登録システムが立ち上がった。モスクワ市教育課のデータによると、登録者数は264000人。モスクワ市内の生徒数は約80万人である。

 ジェルデワ氏はこう話す。「生徒は学校が終わった後で、またどこかに行くことを億劫がる。うちの学校では歩き遠足や他の街への遠足などが企画された。以前は23グループは集まっていたが、今はせいぜい1グループ」

 現実的に生徒の関心を引くことのできるものはスポーツ。「うっ積した攻撃性を緩和するのは体操。動けば動くほど良い」とジェルデワ氏。  

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