「私が思うにはロシア人自身も自分たちのことがよく分かってはいないのではないでしょうか」とカーステン・クリッチャー氏が語る(写真提供はFIPP)。
グローバルなリソースとして事業を始めた頃から、VICEの記者と編集者のチームは何度もロシアに足を運んでおり、この国に魅せられていることをまったく隠さない。2011年には、創立者で同社社長のシェーン・スミス氏がモスクワからハバロフスクまでを鉄道で旅したが、その行き着く先は、彼が7回のシリーズとしてリリースしたドキュメンタリー番組『北朝鮮の労働キャンプ』を撮影した北朝鮮だった。このストーリーによりチームは瞬く間に全国中から脚光を浴び、同社が躍進するきっかけとなったUSA NBOケーブルテレビ局との契約をものにし、彼らのドキュメンタリーが現在同局によりストリーミングされている。
VICE Media営業担当取締役(ドイツ)のカーステン・クリッチャー氏は、ロシアNOWへのインタビューで、同社がロシアとロシア人に対して抱く執着を説明しようとした。
―なぜVICE Mediaはロシアを取材するのですか?
VICE Mediaは雑誌、時事問題の報道、ドキュメンタリー、広告代理店、ミュージック・フェスティバルや若いアーティストたちへの強力な支援といった事業を展開している。2016年までには、証券取引所での同社株式の取引高が10億ドルに及ぶことが見込まれていると、VICE Media営業担当取締役のカーステン・クリッチャー氏は、ベルリンで開催されているデジタル・イノベーターズ・サミットで公表した。
とにかく、ロシアが大好きなんです!VICE Mediaが一番最初にリリースしたDVDには私のシベリア横断旅行の画像が使われています。その後、シベリアのタイガに生息する放射性動物のストーリーが続き、更にその後のストーリーでは、ロシアの列車内で見受けられる行動パターンを暴露しました。語り口はこれまでと変わっていませんが、当社のロシア初のレポートは、細菌より政治色を帯びたものになってきていることは認めます。それは私たちが注目する世界情勢への反応によるものです。2年前にはVICE Russiaプロジェクトを立ち上げました。当社は15人のクルーをモスクワに常駐させています。ジャーナリストによる調査報道から、戦略立案、映画製作、広報などの社内の創造的な業務に至るまで、あらゆる活動に従事する体制が整っています。
―VICEが対象としているのは最若年層で、ほとんどの視聴者は13歳から38歳までの年齢層に属し、その大部分が男性です。もう一つの米国のニュース配信リソースのThe Onionは、その態度はVICEに類似したコミカルなサイトですが、ウクライナについて無知でクリミアの危機を無視するアメリカ人をこれでもかと冷やかしています。彼らが対象としているのはVICEの視聴者よりももう少し上の年齢層です。VICEの視聴者がウクライナについてのニュースを見たいと思うのはなぜだと思いますか?
私たちはThe Onionが採用しているものとは異なる特定の報道スタイルを徹底してとっています。私たちはVICE Newsの運営者なのですから。3月上旬には、当社のモスクワチームがウクライナに2週間滞在し、私たちが集中没頭体験ビデオと呼んでいるビデオを製作しました。チームは1軒1軒を訪ねて人々に取材し、彼らの体験を語ってもらいましたが、これには解説をつけたり追加の映像を足したりしていないので、2国間の国境をまたぐような報道ができました。私たちが他の国際的なメディアよりもロシアをよりよく理解していると主張しているわけではありません。それに、私が思うにはロシア人自身も自分たちのことがよく分かってはいないのではないでしょうか。しかし、私たちの報道は、他のメディアのはるか先を進んでいます。それは、ロシア人とウクライナ人が自分たちのストーリーを語っているところを私たちが報道しているからです。私たちが他のメディアよりも優れているのはこのためです。
―VICEのクリミア情勢の報道スタイルが、例えばウォール・ストリート・ジャーナルやワシントン・ポストの報道内容とあまりにも異なることに驚かされます。彼らは自紙の主張を隠しませんが、VICEはどちらの肩も持たないという立場を維持しているようですね。それは情報戦争に関与したくないからですか?
ああ、その理由は簡単ですよ。私たちは政治色を帯びたリソースではないからです。私たちは右派にも左派にも、中道派にも属しません。私たちはVICEであって、自分たちの哲学だけを頼りとしています。ちょっと清廉に聞こえてしまうかもしれませんが、それが真実です。私たちが目指しているのは優れたネタであって、それが私たちの義務なのです。私たちが依然として自分たちの主導権を握ることができるのはそのためです。
―ロシアの政治家や政府当局との問題に直面するようなことはありませんでしたか?法的あるいは金銭的な圧力をかけられることは?
私の知る限りではありません。でも、サイモン・オストロフスキーのクリミアからのレポートを見れば、私たちが録画中にどのような状況に直面するかをお分かりいただけるでしょう。それは、カメラを妨害されたり、怒鳴りつけられたり罵声を浴びせられたり、クルーに石を投げつけてきたり、といったものです。
―つまり、他のレポーターと同じ扱いを受けるということですね。わかりました。ロシアが北朝鮮に類似した「のけ者国家」へと変貌したとします。それでもVICEはロシアの報道を続けますか?
それは難しい質問ですね!わかりました、それでも居残ってロシアからのレポートを常に配信し続け、世界各地からクールな話題をお届けすることにしましょう。でも正直言って、あなたが描くような筋書きが本当のことになるとは思いませんよ。それは私の個人的な見解ですが。
―ジョークはもうやめるとして、国際関係においてメディアが影響力を発揮していると思いますか?
それには議論の余地がありません。もちろん発揮しています。数多くのドキュメンタリーがきっかけとなって、現実の真剣な国際的紛争が発生しました。これらのドキュメンタリーはメディアが制作したもので、メディアを通じて注目度が上がり、人々の間で議論が盛んに繰り広げられるようになったのです。メディアは常に人々に対して影響力を行使してきましたが、今後も常にそれを維持していくでしょう。長期的にはあなたや私のような人々がエンドユーザーなわけです。私たちの周辺でどのような出来事が起きるかを選ぶことはできませんが、その報道は選べます。自分が読んでいる新聞が信じられないなら、それを捨てて別のものを読めばいいのです。観ているチャンネルがひどすぎる?それなら別のチャンネルを観ればいいのです!
―VICEでは、どのロシア関連の話題を報道するかの選択はどのようにして決めているのですか?
各国の支局に責任編集者がいて、彼らが独自の主導権を発揮しています。しかし、彼ら全員がVICEが掲げる基本原則に従っています。それは視聴者に情熱的で心を奪うようなレポートをお届けし、視聴者を尊重し、彼らにあらゆる評価権を委ね、彼らの生活をより色彩豊かにし、世界の出来事の目撃者になってもらうということです。私たちの視聴者はそのことで感謝してくれますし、それによってさらにVICEのスタイルを後押ししてくれます。これ以上望むことはありません。
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