日常生活に便利なイノベーション

Getty Images撮影

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ロシアの若き開発者たちは、日常生活をいかに簡略化するかについて考えている。開発品は世界のどこでも使えそうだ。

砂糖が混ざるティーカップ

日本、中国、アメリカのテーブルにあがる可能性も

 デザイナーのアナスタシヤ・ガヴリロワさんは2009年、ロンドンに留学し、変わった問題に何度も直面した。飲食施設で紅茶にティースプーンがついてこないのである。これでは砂糖などを入れても混ぜることができない。

 ガヴリロワさんはその2年後、ITとユーザー・エクスペリエンス分野の専門家である、未来の夫のラファエル・ガイヌッリンさんと出会う。ある時デートでロンドン時代の話をし、スプーンなしで済ませる方法についてのアイデアをあれこれ共有した。その数年後、砂糖が混ざる回転カップ「ペグトップ(Pegtop)」が完成した。

 一番難しかったところは、回転する時に液体がこぼれないようにすることだったと、ガヴリロワさんは話す。

 すでに特許取得済みの構造は、駒の原理で動く。カップ底面には凸部があり、手でカップを回すと、ソーサーの中心部の突起を軸に回転する。カップ側面の凹部は、カップが回転する方向に傾いている。これによって液体の細流が下方向に回転し、外に飛び出ない。開発の山場はわずか2週間だった。

 このスマートなカップは2012年、シンガポールで行われた国際的な栄えあるデザイン賞「レッド・ドット・デザイン・コンセプト」で決勝に進み、パリで行われた「デザイン・アンド・デザイン」では優勝した。個人の購入者以外にも、日本、中国、アメリカのオンライン・ショップがすでに関心を示している他、ロシアの大手製造会社は顧客への贈り物としての購入を希望した。

 カップ&ソーサーの価格は40~60ドル(約4000~6000円)。陶磁器かガラスかによって価格が変わってくる。だが初品ロットからは利益を得られないため、ガヴリロワさんは生産のためにクラウド・ファンディング(群衆融資)をつのることを決めた。1万セットの初品ロットが発売されるのは6月。

 

非接触センサー

東・東南アジアのパートナーと交渉中

 油っこいスナック菓子を食べながら、タブレットを操作するためにわざわざ手を洗うなんてことがある。バウマン工科大学の大学院生であるドミトリー・テレンチエフさんは、いかなる状況でも使える画面を考案した。

 このアイデアが浮かんだのは、卒業論文を書いていた時。開発段階ではたくさんの実験を行った。苦労の結果生みだされたのが、革新的なセンサー画面。フローティング・タッチとマルチ・タッチの2つの機能をひとつにしている。どちらの機能も市場にはすでに出回っているが、組み合わせたものは今のことろない。例えば「ソニー」は、1本の指で離れたところからスマートフォンを操作できる技術を使っているが、この技術は複数の指の動きを同時にとらえることはできない。この開発品はフローティング・タッチによって、画面に触れることなく(10センチメートル以内)操作でき、マルチ・タッチによってマルチタスクのジェスチャーを認識できる。特許は現在出願中。

 ロシアはセンサー画面を年間80万個、額にして2億8700万ドル(約287億円)分輸入している。その3分の1は海外のスマートフォンとタブレットのメーカーの製品。テレンチエフさんはこの開発の可能売上高を1億3000万ドル(約130億円)と見積もる。国内の潜在的な顧客は、ナビゲーション・システム、自動ターミナル、自動車用電子機器、現金自動預け払い機(ATM)、防衛設備、医療設備のサービス・センターやメーカー。

 最初の試験ロット(100個)については、今秋の出荷を計画している。現在、国内外の民間投資家や、東・東南アジアの潜在的顧客との交渉が行われている。テレンチエフさんは、2016年に初利益を見込んでいる。

 

おりたたみ式スロープ

中国、中南米への供給も目指す

 バウマン工科大学の卒業生であるアレクセイ・フォメンコさんと仲間は2011年、どんな入口にも設置可能なスロープをつくることを思いついた。

 「モスクワには、防火規定があることで、リフトやスロープを設置できない建物の入口が結構あることに気づいた。スロープをつけると、階段がせまくなってしまうから」とフォメンコさん。フォメンコさん、キリル・エルショフさん、その他4人のエンジニアがスマートなスロープ「Iパンドゥス」をつくるのに、1年と200万ルーブル(約600万円)を要した。

 Iパンドゥスは制御可能な軌道の付いた、おりたたみ式スロープで、フォメンコさんによると、世界に類似品はないという。特別な操作ボタンを押せるのは、電子キーを持っている人のみ。機械は信号で階段の手すりの下から動き、軌道の幅は車椅子の車輪などに合わせて、自在に変えることができる。

 Iパンドゥスの量産は約2年前に始まり、昨年の売上高は当初の約7倍になった。フォメンコさんとエルショフさんの会社は、1台あたり5000~5500ドル(約50~55万円)のスロープを、平均月6台ほど販売している。ちなみに一般的なスロープの価格は1台1000ドル(約10万円)。モスクワ市はこのプロジェクトを支援している。またすでに3つの投資元もあり、このうちの1つは26万ドル(約2600万円)を投じた。

 「この事業を始めたばかりの頃は、住宅・公営事業の市場はワイロだらけで、知り合いやワイロなしでは参入できないと言われた。だけどイノベーションに関心を持っている普通の人もいることがわかった。スロープはインターフォン付きの金属製のドアみたいに標準的なものになると思う。近い将来、どの入口にも当社のスロープがあるような状況になるんじゃないかな」。今後の計画には、国内とCIS諸国だけでなく、中南米と中国での供給も含まれている。

 

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