北極圏と共に歩む

北極圏の鹿(2014年の5月) =AP

北極圏の鹿(2014年の5月) =AP

ロシアはいつの時代も北極圏を見つめ、密接な関係をもってきた。5月末、ロシアは初めて「極地探検家の日」を祝い、北極圏に挑んだ冒険家たちの偉業を記念した。地球温暖化でシベリアの永久凍土(ツンドラ)が溶け、極北での暮らしや資源開発の変化が起きつつある。現地は実際、どうなっているのだろうか。

 ロシアの北極圏には約700万人、ロシアの人口の約5%が住んでいる。数十の都市のうち10万人以上の都市が六つある。ムルマンスク、ボルクタ、ウレンゴイ、ノリリスク、ヤクーツク、マガダンだ。


国産天然ガスの9割

 現在、ロシア産天然ガスの90%以上、石油の3分の2は北極圏からのものだ。

 環境保護団体グリーンピースの2009年報告によると、北極圏経済の62%がロシア領に集中し、約1400億ドル(約14兆円)に上る。

 今後の発展は気候と環境の変化に左右される。「温暖化はロシア領内で、世界平均に比べて約2倍のテンポで進んでいる」。ボエイコフ記念地球物理学中央観測所のカトツォフ所長はそう断言する。

 北極圏の温暖化はさらに急速だ。ロシア水理気象環境調査庁によれば、1976年以来、ロシア平均では10年間で0.43度上昇し、北極海沿岸部は10年間で0.8度上がっている。

 地球温暖化は北極圏に経済的プラスになるとの意見がある。

 気温上昇で農業が発展し、もっと住みやすい環境になるなどと言われるが、必ずしも正しくない。北極圏に菜園はできない。北極圏のやせた土壌が黒土になるのには数千、数万年かかる。

 


永久凍土は永久か

 北極圏のすべての都市は永久凍土の上に築かれている。

 永久凍土とは地殻の表層で2年間以上凍っている部分。ロシア領土の約60%が これだ。

 モスクワ大学地理学部のキジャコフ主任研究員は永久凍土が溶け出す要因として地球温暖化のほかに、降雨、降雪の量と頻度、植生、地質学的成分などを挙げている。

 一方で、ロシア科学アカデミー・シベリア支部凍土研究所のシェペレフ副所長は強調する。「長年の観察では、凍土が溶ける気配はない。ましてや消滅など論外だ」

 なぜなら、永久凍土が溶けるには、よほどの熱を加えねばならないからだ。

 むしろ、環境破壊など人為的な影響の方が気候変動よりはるかに大きい。この点で研究者たちの見解は一致している。

 「凍土層への人為的作用は温暖化をはるかに上回る影響を及ぼしている」とキジャコフ氏は指摘する。

 「仮に凍土に温水を年中放出すれば、もちろん溶ける。産業開発においては多くの過ちが犯され、凍土融解を招いている」とシェペレフ氏も語る。


トナカイ受難

 ロシア北部の先住民族の暮らしも温暖化の影響にさらされている。永久凍土が所々沼地になり、トナカイの移動のルートが変化しているためだ。

 かつては5月にまだ雪に覆われていたツンドラが今では4月末に溶けてしまう。冬季も渡河地点の氷が薄いので、放牧地への移動が間に合わなくなった。

 トナカイにとっては氷層面をほじくりコケ類を食べるのが難しい。今年春、ヤマル半島では6万頭のトナカイが死んだ。

 

ソ連時代の負の遺産

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北極の氷が溶ける

 問題は、ソ連時代に北極圏の遠隔地が軍事基地や放射性・化学物質の廃棄物埋設地として使われたことだ。

 「フランツ・ヨーゼフ諸島の一つ、アレクサンドラ島の汚染除去作業が終わった」。ロシア大統領特別代表北極・南極圏国際協力問題担当のアルトゥール・チリンガロフ氏は言う。

 アレクサンドラ島だけからでも2012年に、5万トンの鋼鉄製ドラム缶と約5000トンの固形廃棄物が運び出された。政府は「北極圏沿岸部をすべて除染する」という。

 グレエムベル島にあった石油貯蔵庫(30万本以上のドラム缶)は廃棄される。フランツ・ヨーゼフ諸島では約85億ルーブル(約255億円)を投じて、8年間で除染する計画である。