段階的に生物情報学を学べる「ロザリンド」

ニコライ・ヴャッヒ氏 =写真提供:Press Photo

ニコライ・ヴャッヒ氏 =写真提供:Press Photo

現代科学の先端分野を学習できるようなプラットフォームを、ロシアの研究者が構築した。世界のユーザーが、このユニークなプロジェクトの効果を評価している。

ジェームズ・キャメロン監督採取のサンプルを分析 

 2012年3月、ジェームズ・キャメロン監督が、世界でもっとも深いマリアナ海溝のチャレンジャー海淵に潜航するところを、世界は見守った。キャメロン 監督は11キロメートルの深さを単独潜航し、世界記録を樹立しただけでなく、深海のバクテリアのサンプルを採集し、地上に届けた。

 このサンプルを研究したのは、カリフォルニア大学サンディエゴ校と、ノーベル物理学賞受賞者ジョレス・アルフョロフ氏が学長を務める、サンクトペテルブルク・アカデミー大学アルゴリズム生物学研究所の専門家だ。

 

米サンディエゴとサンクトペテルブルクの研究者の協力の一環 

 サンディエゴとサンクトペテルブルクの研究者が共同研究しているプロジェクトはこれだけではない。世界的な研究者をロシアに呼ぶことを目的としてロシア 政府が始めた、助成金制度(1億5000万ルーブル≒約4億5000万円)の一環として、2011年から協力関係を結んでいる。生物情報学分野の指折りの専門家で、カリフォルニア大学の教授を務めるソ連出身のパーヴェル・ペヴズネル氏も、この制度で共同研究を始めた一人。ペヴズネル氏はかつて、サンクトペテルブ ルク・アカデミー大学アルゴリズム生物学研究所を率いた。

 この研究所を基盤として2012年夏、統合教育プロジェクト「ロザリンド」が立ち上げられた。このプロジェクトは、イギリスの生物化学者、ロザリンド・フランクリンにちなんで名づけられている。

 プロジェクトには英語のウェブサイトがあり、そこではユーザーがコンピュータ・プログラミング式に生物学分野の課題を解決しながら、生物情報学を学ぶことができる。

 

生命の科学はデータ分析になりつつある 

 「生命の科学はデータの科学になりつつある。生物学者が実験を数千回もすることなく、すべてをコンピュータで計算するか、または限られた実験をする だけで済むように、効果的なデータ分析方法が必要」と、27歳のプロジェクトの創設者であるニコライ・ヴャッヒ氏は話す。

 生物情報学は現代科学の最先端にあり、研究の実際的意義を評価するのは難しい。これは人の病気に対する素因を調べるためのゲノム解読であり、新しい抗生物質の探求であり、バイオ燃料やその他さまざまなものの開発でもある。

 ロシアでは今のところ、モスクワやサンクトペテルブルクのいくつかの大学で、生物情報学を研究しているにすぎない。そのうちの一つはアルゴリズム生物学研究所を基盤として創設された、サンクトペテルブルクの生物情報大学で、ヴャッヒ氏が学長を務めている。

 

統合教育プロジェクト「ロザリンド」

http://rosalind.info/

学生の回答の添削から着想 

 ヴャッヒ氏は生物情報学を学生に教えている。ロザリンド・プロジェクトのアイデアが浮かんだのは、教授活動をしていた時だ。「サーバに課題集を置いて、 学生にリンクを提供した。学生はアクセスして課題を解き、その後回答が自動的に添削された。だがこのシステムはユーザーにとってかなり使いにくいものだっ た」。

 ヴャッヒ氏は、システムを完成し、それを幅広いユーザーが使えるようにしようと考えた。ユーザーがコンピュータ・コードを使って、簡単な課題からより難しい課題へと移りながら一連の生物データを仕上げるという、基本原理は変えなかった。

 このプロジェクトを利用するのに、生物学や情報科学の深い知識は必ずしも必要ではなく、これらを学びたいという気持ちがあることが重要だ。ヴャッヒ氏によると、ユーザーが高校レベルの数学を知っていることが好ましいという。

 プログラミングができないユーザーには、主な課題を解決できるプログラミング言語「パイソン」の基礎問題が個別に渡される。生物学があまり得意ではない ユーザーは、課題についている生物学的意義の説明を読むことができる。多くの専門用語が、ウェブサイトでも説明されている。

 このようにしてユーザーは課題を解決する際、生物学や情報科学分野の新たな知識を得ることができる。「情報科学者は新しいアルゴリズムの開発の仕方を教えられ、生物学者はそのアルゴリズムの応用の仕方を教えられる」とヴャッヒ氏。

 

既に9000人参加し、うち10人が全問解決 

 プロジェクトにはすでに9000人ほどが参加しているが、5分の1がロシアから、5分の3がアメリカからの参加者だという。

 解決した課題の数によって各ユーザーは評価を得るが、1問も解決していない0レベルのユーザーは1300人ほどいる。今のところ最高7レベルで、10人が128問全問を解決してこの評価を得た。

 課題は遺伝、ダイナミック・プログラミング、系統学などのテーマごとにわかれている。一つのセクションの課題をうまく解決できるとバッジをもらえる。例えば組み合わせ論を5問解決すると、ユーザーは1レベルのバッジをもらう。

 さらに特別な褒賞システムがあり、夜中に課題を解決したり、課題の説明を書いたり、あるいはウェブサイトのエラーを管理者に報告することでも受け取れる。

 「バッジや褒賞はゲームみたい」と、サンクトペテルブルクの第30物理・数学高校の生徒、ナタリヤ・ジンズブルクさんは話す。

 ヴャッヒ氏とプロジェクトの仲間は現在、生物情報学に関連する分野を学ぶための、新たな教育プロジェクトの構想を進めている。今年にも立ち上げる予定だ。