「敗者なき平和条約締結を」

ロシアのプーチン大統領と日本の安倍首相=

ロシアのプーチン大統領と日本の安倍首相=

ミハイル・メツェル撮影/タス通信
 ウラジオストクで開催された東方経済フォーラムで、ロシアのプーチン大統領と日本の安倍首相は、両国間の平和条約締結に向けて作業を継続することで一致し、当面、そのための交渉が続けられる。露日両首脳は、その間の時間を空費しないように、両国経済界に呼びかけた。

 安倍首相の「東方経済フォーラム」全体会合の演説は、個人的な思い入れのこもったものだった。それは少なくとも予想外で、それ以前にロシア側が耳にしていたものとは異なっていた。

 安倍首相は、ロシアの作家アントン・チェーホフを引用し、ロシアの歴史と現実から例を挙げた。ウラジオストクについて語りながら、当地の最高の絶景は海から見た眺望だと述べ、かつてウラジオに住んでいた格闘家ワシリー・オシェプコフに触れた。彼は、講道館柔道をロシアに紹介した人物で、日本でも知られている。また、やはりウラジオ出身者でオスカー俳優であるユル・ブリンナーにも言及した。

 「ウラジオストクを、ユーラシアと太平洋とを結ぶゲートウエー(玄関)にしよう」と呼びかけながら、安倍首相は、自身の8項目の経済協力提案について触れ、「極東地域をアジア太平洋に向けた輸出拠点にしよう」と述べた。そして、「ロシア産業の多様化を進めて生産性を上げ、それを生かしながら、ロシア極東地域を、アジア太平洋に向けた輸出の拠点にしよう」と呼びかけた。

 そのうえで安倍首相は、「プーチン大統領に新しい提案をする。年に一度ウラジオストクで会い、8項目の進捗状況を互いに確認しよう。…20年、30年先、日本とロシアはどんな関係にならねばならないかを考えよう 」と述べた。

 それから安倍首相は「君僕」の言葉づかいに移り(これは日本語でもロシア語でも親しい関係を示す)、プーチン大統領に「ウラジーミル」と語りかけながら、「私たちは、それぞれの歴史に対する立場、おのおのの国民世論、そして愛国心を背負って、この場に立っている。日本の指導者として、私は日本の立場の正しさを確信し、ウラジーミル、あなたはロシアの指導者として、ロシアの立場の正しさを確信している。 しかしこのままでは、あと何十年も、同じ議論を続けることになってしまう。それを放置していては、私も、あなたも、未来の世代に対してより良い可能性を残してやることはできない」。安倍首相はこう語った。

 

ロシアの「魔法の水晶球」に映った平和条約は

 全体会合の司会を務めていたケヴィン・ラッド元オーストラリア首相は、安倍首相の演説の後で、「魔法の水晶球を覗き」、5年-10年後の露日関係を見てみては、とプーチン大統領に言った。

 プーチン大統領は、露日両国の利益を念頭に置きつつ、「水晶球に映るのは、我々両国の国益だ」と答えた。

 「私と晋三は、友情と信頼の関係にある。我々は、我々が作り出したのではない、この問題を解決しなければならない。…どちらの側にも敗者と感じさせないような形式が、我々には必要だ」。プーチン大統領はこう述べたうえ、指摘した。「歴史上にはこうしたアプローチの例は少数だが、成功を切に期待している」

 さらにプーチン大統領は、「我々は、決然と歩み出そうとしているが、この歩みは入念に準備されなくてはならない。その間、我々は現在すでにある可能性を逃してはならない」と述べ、両国経済界に協力を先延ばししないよう提案した。

 

露日経済界の声

 「ロシアが必要としているのは単なる投資ではない。アジア太平洋地域の市場に共に出せるようなプロジェクトが必要だ」。ロシアの新世代の企業経営者団体「実業ロシア」のアレクサンドル・レピク議長は、全体会合の前日の露日間の対話でこう述べた。

 レピク議長によれば、日本からの投資を呼び込み、実業面での問題解決を手助けするため、昨年、作業グループが立ち上げられた。「これは、日本のビジネスの権利保護に関する事務所で、日本側の代表は、上月豊久在ロシア大使。…また我々は、ロシアからの輸出に関連するプロジェクトに対し、あらゆる支援を行う」。こうレピク議長は述べた。

 一方、三井物産モスクワ有限会社社長兼CIS総代表の目黒祐志氏は、すでに1990年代初めからロシアでビジネスを始めているが、こう述べた。「我々は、カリーニングラードからウラジオストクにいたる多くのプロジェクトに投資している――大豆栽培にも電子機器関連分野にも。…我々は、ロシアが様々な分野で潜在的に強い国であることを目の当たりにしている。電子書籍、オンラインの教科書なども含めて」

 また目黒氏はこう付け加えた。「サハリンでのプロジェクトが、ロシアへの主要な投資ということになる。それはわが社に利益をもたらすばかりか、日本のエネルギー安全保障にも寄与している」。目黒氏は、三井物産モスクワ有限会社がさらに10億ドル(約1000億円)以上をサハリンでのプロジェクトに投資する用意があると述べた。

 また浅田照男・丸紅会長は、自身の演説のなかで、「安倍首相が提案した8項目の経済協力は、日本の実業界にとって、新たな経済政策を展開していくうえでの主な基盤となる」と述べたうえ、各国の貿易額が落ち込むなか、2015年の日本からの投資額は、3年ぶりに、5億ドル(約500億円)の増加を示したと指摘した。