メドベージェフ首相の訪問と、クリル諸島がロシアの不可分な、自明の一部であるとする同氏の声明(「それが実情であり、それが変わることはない」)は、事前に予定されていたロシアのウラジーミル・プーチン大統領による東京訪問と、日本の安倍晋三首相との首脳会談が実現する可能性を危険にさらしただけでなく、完全に台無しにしてしまった可能性もある。
待望されていたハイレベル協議の実現前でありながらも、日本との関係冷却化という代償を厭わないかのように見受けられるロシアの理由とは何であろうか? ロシアの「独立新聞」の外交論説委員であるウラジーミル・スコシレフ氏は、トロイカ・レポートに対して次のようにコメントした。
「私はロシアがとった強硬的な姿勢に少々驚いている。当分の間は、ロシアが北方領土を日本に譲渡するという可能性は考えられない。ロシアの首相がこの時期に択捉島を訪問することの必要性が私には理解できない。ロシアは現在、西側諸国からの敵対的な態度に直面している。日本のロシアに対する立場は、どちらかというとそれほど強硬ではなかったし、ロシアは日本からの投資に関心がある。プーチン大統領の日本訪問には、両国間の関係を改善できる可能性があった。また、ロシアの中国に対する依存度も軽減できたかもしれない。メドベージェフ首相による択捉島訪問は、プーチン大統領の日本訪問によって前向きな結果が得られるとモスクワが期待していないことを示していよう」
どうやら、ロシアの「アジア中心化」政策は、主に中国を主軸とするものに変容しつつあるようだ。積極的に日本を関与せずにこの戦略が成功する可能性はあるのだろうか?
「このいわゆる「アジア中心化」は、あまり優れた政策だとは思わない。ロシアはますます中国に依存するようになっている。中国の影響力に対する拮抗力を求めるべきだ。日本は、そのようなゲームで役割を担う可能性がある国の一つ。しかしロシアは、東京との関係を改善する可能性を拒否してしまった」
ロシアの立場は、この論議がきわめて“微妙”であるという前提に基づき、政治とビジネスを分離し、領土問題の解決を次の世代に先送りした方が理に適っているというものだ。
この常識の論理に従う人なら誰でも、激動の日露関係の将来についていくつもの重要な問題を提起するだろう。
ロシアが厳かに宣言した「アジア中心化」戦略は、積極的に日本を関与せずに成功するだろうか? 答えは否である。
ロシアと中国の協調関係の潜在的可能性を考慮しても、日本は、ユーラシアで加速化しつつある新たな統合プロセスにおいて、傍観者でいられるか? 否。
日本の政治家の間には、係争中の千島列島(クリル諸島)が返還されることにより、第二次世界大戦後の和睦が可能になり、両国間の関係において平和と繁栄の道が築かれるであろうという本気の信条があるだろうか? 否。
日本の政策立案者は、モスクワの指導者が、それが誰であるかを問わず、ロシアの領土の一部分を「ただ同然で放棄」することに対してロシア国民の支持を得られると考えているだろうか? 否。
今度は「はい」で答える一連の質問を試してみよう。領土問題が完全に膠着状態に陥っている場合、それは近隣する両国間の政治的およびビジネス上の協力関係に悪影響を及ぼすことがあるだろうか? ある。
この場合、それにより、ロシアと日本の有意義で有益なやり取りがもたらす利点が失われるだろうか? 然り。
長期間にわたる不一致は、ロシアが中国との関係を強化し、非軍事的な戦略関係をあてにするようロシアを納得させる一方で、日本は米国との同名を維持する以外に選択肢がないことを日本に納得させるであろうか? 納得させる。
これでは両国を妥協に向けて一寸たりとも近づけることにつながらない。フィナンシャル・タイムズ紙が指摘したように、「米国との同盟を日本が堅持していることは、ロシアに譲歩をさせるインセンティブにまったくならない」
確かに、現職の総理大臣の父である安倍晋太郎氏は、外相を務めていた1980年代に、冷え切っていた外交問題の解決を試みた。だが、それはまったくうまくいかなかった。
現在、息子の安倍晋三首相はプーチン大統領と特別な関係を築いているようで、大きな進歩の実現に向けて熱心だ。安倍首相は、1945年の枢軸国に対する連合国の勝利70周年記念を祝う5月開催のモスクワでの式典に出席することさえ検討していた。噂によると、プーチン大統領は、クリル諸島を巡る論争の適切な決着を模索することに関心を示していた。
こうした論理的計算の最も重要な結論は、日本とロシアを引き離している確立された誤解と敵対関係は、どちらの国にも有利ではないということである。クリル諸島をめぐる論争におけるモスクワと東京にとって克服しがたい障害とは、依然として従来の双方に不利な状況なのである。
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