グリゴーリイ・シソエフ撮影/ロシア通信
ミストラル級強襲揚陸艦2隻の建造契約は、ロシアとフランスが2011年6月に締結したもの。最初の2隻をフランスがつくり、その後ロシアがライセンスを取得して新たに2隻独自につくる予定だった。契約金額は12億ユーロ(約1740億円)。最初の2隻の名称は「ウラジオストク」と「セヴァストポリ」。1隻目の「ウラジオストク」はすでに建造済みで、現在フランス・サンナゼール港に停泊中。
フランスAFP通信の25日の報道によると、オランド大統領はこの「ウラジオストク」のロシアへの引き渡しを凍結した。軍事用途品の輸出ライセンスはミストラルに対して発給されない。
北大西洋条約機構(NATO)の関係者や影響力のあるアメリカの議員は、ウクライナ情勢の悪化の原因がロシアにあるとして、ミストラルの納入に反対していた。NATOによるミストラル購入の提案もあったが、ロシア仕様であるため、技術的に不可能となっている。
フランスが契約の義務を履行しない場合、違約金は30億ユーロ(約4350億円)になると、ロシア側は試算している。ロシア連邦国防省のユーリ・ボリソフ次官は、「我慢強く待つ」用意がロシアにあるものの、場合によってはストックホルム商業会議所仲裁裁判所に訴える可能性もあるとの声明を発表した。仲裁裁判所がウクライナ情勢を不可抗力と認め、フランスに取り引きを拒否する権利を与えるかは、今のところわからない。
モスクワ国立国際関係大学国際法講座のイリヤ・ラチコフ助教授によると、フランスで軍事行動があった場合などに、不可抗力の範囲に収まるという。ドミトリー・メドベージェフ大統領(当時)は、国連安保理の決議案を受けて、イランへのS-300ミサイルシステムの輸出を禁止したことがあった。イランはその後、製造者であるロシアの国営兵器輸出企業「ロスオボロンエクスポルト」を国際裁判所に訴えた。
ボリソフ次官は、フランスが契約の義務を履行しなければ、ロシアは裁判所に訴えると述べている。
インターネット雑誌「週刊誌」の副編集長で軍事専門家のアレクサンドル・ゴリツ氏は、オランド大統領の決定が「ロシアには一切ミストラルを納入しない」ことを意味すると考える。「納入はウクライナ問題に対するロシアの姿勢次第。ロシアが近い将来、姿勢を変えないことは明らか。つまり、ミストラル納入のための条件は整わない」
ゴリツ氏はまた、こう話す。「ロシアのマスメディアや専門家は、罰金や違約金の規模を大げさに言いすぎている。取り引きには保険がかけられているだろう。フランスは一定額を負担しなければいけなくなるだろうが、それほど多額にはならない」
この取り引きが成立しなかった場合、兵器市場におけるフランスの評判に影響がおよぶし、ロシアとの関係も変わる。契約に調印したフランスのニコラ・サルコジ元大統領は今月中旬、フランスが約束を果たし、ミストラルを納入すべきだと述べた。
ロシア下院(国家会議)国際問題委員会のアレクセイ・プシコフ議員は、フランスがミストラルの契約を完全に破棄することなく、欧州連合(EU)、NATO、ロシアの間でバランスを図っていると述べた。また、オランド大統領の決定を「一時的かつ不完全」だと考えている。「フランスは選択を迫られている。オランド大統領は、時間の経過とともに、条件が改善するとも考えているのではないか」
ロシア下院の一部議員はすでに、フランスに対する”罰”について提案している。下院防衛委員会のウラジーミル・ベッソノフ議員はこう述べた。「フランス産ワインのロシアへの輸入を禁止すべき。この話を出すだけでも、結果に影響をおよぼせるのではないか」
ロシアにとって、これは冷戦後初のNATOブロックとの大型兵器納入契約であった。軍事専門家は、アナトリー・セルジュコフ国防相(当時)のミストラル契約を批判していた。ロシアは自力で軍艦を建造できるし、フランスは自分たちの技術をロシアに渡さないだろうと述べていた。
納入されなければ、西側への軍艦発注の失敗になるが、冷戦前に失敗例はあった。
ソ連政府は1937年、アメリカに大型戦列艦を発注しようとした。ソ連の外交官はアメリカのフランクリン・ルーズベルト大統領(当時)と会談し、商談を行ったが、結果はでなかった。アメリカがソ連向けに古いタイプの戦列艦を建造することを提案し、ソ連の軍関係者はこれを拒んだ。
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