ウクライナ問題で奔走するチェチェン人

チェチェン共和国のラムザン・カディロフ首長=ロシア通信

チェチェン共和国のラムザン・カディロフ首長=ロシア通信

ロシアの政治家の大半がウクライナ問題について最大限に慎重に話す中、ひときわ存在感を放っているのが、チェチェン共和国のラムザン・カディロフ首長だ。

 西側諸国やウクライナのマスメディアは、ウクライナ南東部でカディロフ首長の管理下にある戦闘隊員が、義勇軍(親露派)側について積極的に戦っていると報道している。ウクライナ政府は見た目がカフカス系の義勇軍兵士の写真をひんぱんに公開しながら、これはチェチェン人だと言っている(ウクライナ南東部には南オセチアのグループを含む、カフカス各地の義勇兵がいることは知られているが)。チェチェン人を意図的にウクライナに送りこんでいるという話を、カディロフ首長は否定する。ウクライナ南東部の義勇軍にチェチェン人がいるとすれば、それは「私用で」行っているのだという。

 

「ライフニュース」テレビの記者の解放支援 

 カディロフ首長は、ウクライナ南東部のロシア語系住民を、もっと積極的に保護すべきだと考えている。ロシアの「REN」テレビの取材に対し、ウラジーミル・プーチン大統領の指令を待っており、ウクライナに7万4000人のチェチェン人義勇兵を正式に派遣する用意があると話した。

 ウクライナ問題でもっとも注目されたカディロフ首長の行動と言えば、ウクライナ国家親衛隊によって拘束されていた、ロシアの「ライフニュース」テレビの記者の解放支援である。ドネツィク州クラマトルスク市近郊で5月18日、2人のロシア人記者が拘束された。ウクライナ政府は記者に義勇軍への助力の嫌疑をかけた。5月26日、カディロフ首長の協力により、記者は無事解放された。

 この事件でカディロフ首長が具体的にどのような役割を果たしたのかについては、いまだにはっきりとはわかっていない。「記者解放でカディロフ首長がどれだけ貢献したのかを、もっと調べる必要がある。交渉に積極的に関与したことは確かだが、ツイッターやインスタグラムを持っていない人々が(陰で)大部分の仕事をした可能性も排除できない」と、ロシアの政治学者で、カフカス問題の専門家であるニコライ・シラエフ氏はロシアNOWに語った。ただ、解放された記者がモスクワではなく、チェチェン共和国の首都グロズヌイに移動したことは、誰を中心に活動したのかを示すものだ。

 

チェチェン共和国との“雪解け”?

 シラエフ氏はこう話す。「ウクライナ情勢への積極的な関与は、カディロフ氏が旧ソ連圏で重要な政治家であり、ロシア国外でも影響力があることを示すもの。国外のチェチェン人コミュニティーをめぐる彼の努力は実りつつある。カディロフ氏が自分を『民族の父』と位置付け、アフメッド・ザカエフ氏などの海外の共和国独立支持者の活動基盤をすでに何年も掘り崩そうとしていることは明らか。海外に暮らすチェチェン人の実業家は、チェチェン共和国の復活を手伝い、投資をもたらすと、カディロフ氏は期待している」。カディロフ首長は記者の解放を支援しながら、自分の実力を示しただけでなく、クレムリン以外の人間が同胞の利益を守れることをチェチェン人に示した。

 だが解放による内政への影響はさらに重要だ。カディロフ首長は何年も、ロシア人とチェチェン人の間にある緊張を取り除こうと努力してきた。チェチェン人がロシアで常に”自分たちの人間”と見なされるわけではない。ここ数年はこの緊張に関連したスキャンダルがたくさんあった。

 「チェチェン人の一部はこのような状況に直面すると、”外人嫌い”だと文句を言うだけだが、カディロフは問題を解決しようとする。そしてそれはうまくいく。記者解放の流れは、記者自身がインタビューで語った一フレーズによくあらわれている。拘束中にチェチェン語の会話を聞いた時、すべてがうまくいくとわかったそうだ。ここ20年の問題を考えると、このフレーズは貴重なもの」とシラエフ氏。

 5月26日以降、チェチェンに関連するインターネット上のニュースへのコメントが、ガラリと一変したのは興味深い。カディロフ首長のあらゆる動きに、非難ではなく、称賛や感謝の言葉が贈られている。今後これがどれだけ続くかは、カディロフ首長次第だ。ウクライナ問題も含めて。