AP通信撮影
アメリカ流のゲーム
プーチン氏は、西側がロシアを対等の権利を有するパートナーとみなさないことにロシアはうんざりしたとし、こう述べた。「私たちは、幾度となく繰り返し欺かれ、私たちの背後で決定され、既成事実の前に立たされてきました。NATOの東方への拡大にしても、MD(ミサイル防衛)システムの配備にしても、査証の問題に関する交渉の際限なき遅滞にしても、フェアーな競争とグローバル市場への自由なアクセスの約束にしても、そうでした」
プーチン氏は、「私たちの関係が対等でオープンで誠実なものである」ことを望んでいる点を強調したうえで、ロシアは国際舞台における独立した姿勢を有し、それをあらゆる可能な手段によって固守する意向である、と付言した。
国立経済高等学院・総合欧州国際研究センターのドミトリー・ススロフ副所長は、こう語る。「私たちは、一国だけが国際法に違反できることを、もはや認めていません。一国だけが自国の国益を守るために国際政治の現実に訴えることができることを」
自身の演説の中で、プーチン氏は、今後はロシアも米国と同様に振る舞うことを示唆し、こう述べた。「なぜか、コソボのアルバニア人にできたことが、クリミアのロシア人、ウクライナ人、クリミア・タタール人には禁じられています」
“我々の人々”は我々の利益
国外の同胞の保護は、プーチン氏の演説におけるもう一つの重要なエレメントであり、ロシアは、ソ連崩壊後にさまざまな国に離散したロシア人たちの守り手であると自ら宣言した。プーチン氏は、こう述べた。「一つの国の中で寝ていた多くのロシア人が目を覚ますと国外にいたわけで、ロシア民族は、世界最大の離散民族、でなければ、最大のそうした民族の一つとなりました」
ロシアは、かつては、超国家的統合機関(とりわけ、ユーラシア共同体)を通して行動しようとしていたとすれば、西側がクーデターを通してロシアからウクライナを奪い取ろうとした今となっては、自国の国益および安全をよりラディカルな手段で守る用意を表明した。
ロシアの政治学者セルゲイ・マルケドノフ氏は、こう語る。「ウラジーミル・プーチン氏は、大統領自ら『ロシア世界』と呼ぶものに対する脅威が発生した際に現在のポストソ連圏の国境を見直す可能性に言及しました」
そうした声明は、西側のパートナーの懸念およびCIS(独立国家共同体)の一部の国(とくに、北部にロシア人が住むカザフスタン)の警戒心を煽ったが、専門家らは、そうした恐れは時期尚早とみなしており、マルケドノフ氏は、こう述べる。「ロシアは、自国の国境の周辺で紛争を起こしはしません。ただ、クリミアの状況は、脅威があれば反応があることを示しました。ロシアは、クリミア以前には、西側の嫌悪や懸念を考慮する用意がありましたが、今は、自国の国益を優先しています」
合意が必要
欧米は、プーチン氏の演説に青ざめた。アメリカのカーネギー財団のアンドリュー・ワイス副総裁は、こうコメントする。「西側は、ロシアの外交政策の変更にますます深い懸念を抱いており、こちらでは、対決への回帰あるいはロシアとの新たな冷戦についてしきりに語られています。ロシアは、もはや西側のパートナーとかつてのように接することはできません。ロシアによるクリミア併合の後、西側では、ロシアに関する新たな思考が形成されるでしょう。それが具体的にどのようなものになるかは、今のところ分かりません。プロセスは、まだ始まったばかりなので…」
しかし、自身の演説の中で、プーチン氏は、ロシアの新たな外交政策の思考が必ずしも対決的なものではないことを示唆しており、ロシアを何らかの反米主義の牙城や世界の不安定さの源にするつもりはない。
外交誌「世界政治におけるロシア」のフョードル・ルキヤノフ編集長は、こう語る。「ウラジーミル・プーチン氏の演説の要は、ソ連崩壊後の時期の総括です。今問題となっているのは、もちろん、ソ連の復活ではなく、起こったことをプロセスの必然的完遂とみなすことの拒否であり、ロシアは、プロセスを未完とみなしており、その中間結果を修正する意向です。それは、なにも国境の見直しという意味ではなく、クリミアは、モデルケースと言うよりはユニークなケースと言えましょう。大事なのは、道義的・政治的な再評価です」
また、ロシアは、露米あるいは露欧関係の深刻な悪化によって勝利する者はいないことを認識している。そのため、プーチン氏の演説からは、歩み寄りのニュアンスが感じられた。ロシアの大統領は、ウクライナのほかにもロシアと西側が一緒に解決すべき国際問題があることを西側に知らせようとした。
ドミトリー・ススロフ氏は、こう語る。「ポストソ連圏における再統合を許さない米国の試みは、人為的で惰性的な性格を帯びています。もしも、私たちが、それらの土地のロシアによる統合は反米的な力の極を創り出さないとの認識に至ることができるならば、新しい『ヤルタ-2』(欧州における新たな行動ルール、つまり、西側の規則が終わって私たちの規則が始まる境界の規定)は、アフガニスタン、東アジア、中東といったトランスナショナルな問題における協力の保証となりえます」
とはいえ、米国には、今のところ、ロシアの新たな外交方針と折り合いをつける用意はなく、アンドリュー・ワイス氏は、こう語る。「西側がウクライナをロシアの勢力圏の一部と認めることを期待すべきではありません。それは、ここ20年のトランスアトランティック圏へのウクライナの統合という観点からすると、一歩後退なのですから」
しかし、そうした姿勢は、非建設的であり、新たな問題を孕んでいる。ドミトリー・ススロフ氏は、こう述べる。「西側は、もちろん、今後もそうした交渉を拒否するかもしれませんが、それは、欧州の状況をさらに不安定にする可能性を孕んでいます。必要なのは、冷戦後も尾を引いた言い残しや曖昧さに終止符を打つことです」
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