貿易の自由化は急がず

AP通信撮影

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インドネシアのバリ島で開催された第21回APEC(アジア太平洋経済協力)サミットは、これといったセンセーションはもたらさなかった。参加国はこれまで通り、自国に重要な貿易の制限は撤廃する用意がなく、単に一部の通関手続きの緩和に同意したにすぎない。APECと、米国が熱心に進めるTTP(環太平洋戦略的経済連携協定)とのライバル関係もそのままだ。そして、中国と米国の間でうまくバランスをとるロシアの立場も――。

目標は目標、現実は現実 

 「世界の貿易高の伸びは鈍化し、世界経済の成長は不安定で、多分、予想よりも低く、赤字だろう」とAPECの共同コミュニケには記されていた。

 バリ島に集まった首脳たちは、1年前と同じような約束をくり返した。新たな貿易の障壁を作らず(今回は2016年までという期限付き)、地域統合を進め、いわゆるグリーン・ラインの品目は関税を5%まで引き下げるなどだ。

 ただし、「通関のための時間、費用その他の手間」を加盟国間で減らすために、初めて具体的な指標が設けられ、2015年までに10%減という数字が打ち出されたが。 

 サミットでは主に、域内の経済大国をめぐる問題に話し合いが集中した。ロシアのプーチン大統領は、サミット開幕の2日前に日本、中国、インドネシアの首脳と会談し、アジアの要であるパートナー、中国との間には、「競争するより協力できる点のほうが多い」と述べていた。

 

APECTTP

 こういう空気の中、米国のオバマ大統領の代理として出席したケリー国務長官は、APECの代わりにTTP の意義を鼓吹した。TTPには、世界のGDP(国内総生産)の3分の1が入るはずだ(一方、APECは実に55%を占める)。米国は、この自由貿易圏創設に関する交渉を今年末までに終える意向。

 ケリー長官に対して中国の習近平・国家主席は、「アジアの経済のポテンシャルは、どの国にとっても十分だ」と応酬した。そして、中国は、「すべての加盟国に利益をもたらす統合しか支持しない」と述べた。

 中国は、この米国寄りの“パートナーシップ”を、新興国や発展途上国の利益を考えず、自分の利害だけを追及するものとみている。

 その間にも、中国とインドネシアは、APECの枠内で、通商、貿易のイニシアチブをとっている(APECの加盟国は16で、米露は入っていない)。 

 

プーチン・安倍会談も 

 バリでは経済問題だけが議論されたわけではない。プーチン大統領は、日本の安倍首相、ケリー米国務長官をはじめ、一連の会談を行った。

 安倍首相との会談では、プーチン大統領は、平和条約締結の可能性について言及した。その実務面での作業は、既に再開しており、11月には、外務・防衛担当閣僚会議(2プラス2)を行なうため、ロシアのラヴロフ外相とショイグ国防相が来日する見込みだ。 

 プーチン・ケリー会談では、シリアの化学兵器廃棄と今後の正常化への道のりについて話し合われた。

 「露米には、何をすべきか、いかにそれをすべきかについて、相互の了解がある。オバマ大統領もそういう立場であることを嬉しく思う」とプーチン大統領は、締め括りの記者会見で述べた。 

 

「あれはクリンチじゃなかった」 

 米露関係はクリンチから抜け出したかとの質問にプーチン大統領は、「あれは別にクリンチじゃなかった。シリア問題について言えば、我々の意見の対立は、言わば戦術に関するものだった。米国だって、アルカイダにシリアの政権に就いて欲しくはないはずだ」と答えた。

 「目的を達成するための手段については、意見の相違はあったし、今でもある。しかし、この点でも、ご覧のように大きな進展があった」。こう大統領は付け加えた。

 また、APECでロシアは、ジュネーブ2への参加者を増やすことを主張した(その新たな参加者のなかには、世界最大のイスラム国であるインドネシアも含まれる)。