クレムリンの候補vs有罪判決を受けた反対派リーダー

ソビャーニン氏は2010年、長年市長を勤めたがドミトリー・メドベージェフ前大統領に解任されたユーリー・ルシコフ氏の後任に任命された =Photoshot / Vostock Photo撮影

ソビャーニン氏は2010年、長年市長を勤めたがドミトリー・メドベージェフ前大統領に解任されたユーリー・ルシコフ氏の後任に任命された =Photoshot / Vostock Photo撮影

9月8日に、モスクワ市長の繰り上げ選挙が行われる。海外資産をロシアに移すのが間に合わないミハイル・プロホロフ氏は出馬を断念。“クレムリンの候補”、セルゲイ・ソビャーニン市長は、有罪判決を受けた反対派リーダー、アレクセイ・ナヴァリヌイ氏と対決することになった。

 ヨーロッパ最大の都市をめぐる戦いは、クレムリンの推すセルゲイ・ソビャーニン市長(55)と反対派の活動家アレクセイ・ナヴァリヌイ氏(37)の直接対決になっ た。

 2004年に知事公選が廃止され、自治体の首長は大統領任命となったため、今年9月8日は、10年ぶりのモスクワ市長選となる。知事公選復活は、2011年の下院選挙の不 正を訴え、公正な選挙を求めた何万人もの反政府派デモへの譲歩として認められた。

 

ソビャーニン氏とナヴァリヌイ氏 

 ソビャーニン氏は2010年、長年市長を勤めたがドミトリー・メドベージェフ前大統領に解任されたユーリー・ルシコフ氏の後任に任命された。 彼はルシコフ氏の仲間を市役所から追い出し、交通インフラと公共スペースの改善によりモスクワの近代化に取り組むべきチームを任命した。

 37歳のナヴァリヌイ氏は、新世代の政治運動家を代表しており、主にインターネットを通じたキャンペーンと反政府派の街頭抗議の指導者として目立つようになった。

 

選挙繰上げの真意

  1500万人の人口を抱えるこの都市の次の市長選は、現職の5年間の任期が終了する2015年に予定されていた。しかし、ロシアの石油・ガスの3分の2が集中するチュメ ニ州の知事および大統領府長官を務めたソビャーニン氏は、「モスクワ市民の信頼を高めるために」早期の再選挙を求めると6月に発表し、多くの人々 を驚かせた。「我々の世論調査によると、70〜80%のモスクワ市民は早期選挙を望んでいない」という今年2月のソビャーニン氏 の見解とは正反対だ。

 「政府が早期選挙に踏み切る確かな理由はただ一つ、クレムリンもソビャーニンも、将来に危機感を抱いているからだ」。こう述べるのはモスクワ・カーネギー・センターの政治学者リリア・シェフツォワ氏。

 「ロシア経済が不況である今、政府は近い将来、モスクワ市民の不満が募り、反対派が勢いづきかねないとみている」。

 

なぜか検察が釈放を主張 

 ナヴァリヌイ氏は、ロシアの大手国営企業の汚職を暴露するブロガーとして有名になった。 2010年、彼は民間資金を募って、政府による備品購入の不透明な入札や役人の汚職を指摘する弁護士チームをつくった。彼によると、自身の団体の調査により 590億ルーブルの入札が取り消されたという。

 しかし、ナヴァリヌイ氏自身、ここ1年半で5件の犯罪捜査の対象となっている。これは、何人かの政治評論家によると、政治的な背景があるという。

 7月には、彼が2009年に知事の顧問を務めたキーロフ州の国営森林伐採会社から1600万ルーブル(約4800万円)を横領したとされ有罪判決が下り、懲役5年を課せられた。激しい論争を引き起こしたこの有罪判決を機に、数千人の支持者がクレムリン付近の通りでデモを行なった。

 驚いたことに、彼の投獄を決めたわずか24時間後、検察側はナヴァリヌイが控訴する間釈放されるべきであると主張した。釈放されたことにより、彼は市長選挙に出馬することが可能となった。

 

テレビ露出で知名度アップ 

 「刑務所からナヴァーリヌイ氏を拾ったのはソビャーニン氏だった」。こう語るのは、モスクワにある政治テクノロジー・センター所長のイーゴリ・ブーニン氏。「ソ ビャーニン氏は、自身の当選を正当化するために、選挙の透明性と競争力を証明する必要がある。そのために、彼はロシア随一のブロガーに出馬させた」。

 87%のロシア人の情報源であるテレビで通常好ましからざる人物であるナヴァリヌイ氏は、ありとあらゆる機会を利用して、自身のメッセージを広めようとして いる。汚職をなくせば、何億ルーブル(1ルーブル=約3円)もの節約ができ、その予算はモスクワの人々のために使うことができると言う。ソビャーニン氏が参加を拒否しているテレビ討 論で、ナヴァーリヌイは蔓延する汚職について話をした。

 「すべての要素をコントロールしている体制としてはありがちなことだが、ソビャーニン氏の選挙運動は、想像力が欠如し、行政の圧力に頼っている」とシェフツォワ氏はう指摘する。

 「“持ち駒”に制限があろうと、ナヴァリヌイ氏はオンラインとオフライン両方で、人々を引きつける様々な選挙活動を繰り広げている」。

 

「選挙後投獄すれば政治犯に」 

 彼は選挙活動のために、4900万ルーブル(約1億4700万円)の寄付を集め、14000人のボランティアがモスクワ周辺でチラシや新聞を配布している。ナヴァリヌイ氏は毎日最大5回、市内のさまざまな地区の地下鉄駅の近くで、有権者と屋外ミーティングを行っている。

 ソビャーニン氏を市長として正当化するために始まったキャンペーンは、徐々にナヴァリヌイ氏を現職の主な対抗馬として正当化した。ナヴァリヌイ氏が選挙後投獄されるかどうかは疑問だが、実際投獄された場合、多くの人々にとって、彼は政治犯となる。