モスクワをめぐる”熱き”闘い

政党「国民プラットフォーム」を率いる大富豪ミハイル・プロホロフ氏(48) =AP通信撮影

政党「国民プラットフォーム」を率いる大富豪ミハイル・プロホロフ氏(48) =AP通信撮影

プーチン大統領側近のセルゲイ・ソビャーニン市長の任期満了前の辞職に伴い、モスクワで9月8日に前倒し市長選が行われる。任期満了を待たなかったのは反政権派を意識したためとの見方がある。

 反政権派の中核となる有権者はモスクワに多く存在しているが、基盤となる都市で反政権派の指導者が勝利できなければ、当分政権批判の勢いも衰えるだろう。臨時選挙を主導した連邦政府と市政府は、これを狙っている可能性がある。 

  モスクワ州ヒムキ市で昨年行われた市長選について、多くの人がモスクワ市長選の前哨戦だと言っていた。そのため、ロシアの政治学者の誰もが、選挙の流れと反政権派の敗北を注視していた。

 セルゲイ・ソビャーニン市長の任期満了は2015年だが、それより2年以上も前に辞職したため、反政権派が巻き返しを図るチャンスは予想よりも早く訪れた。前倒し市長選は9月8日に行われるが、多くの専門家は反政権派の準備が整っていないと考える。

 

モスクワの重要性

 モスクワは常に象徴的意義を持つ街だ。ここでの勝利は将来の成功を保証し、敗北は失敗を示す。このような意義は別としても、やはり多くのことがこの街に依存している。モスクワ市長という立場は、法的には他の地域の知事と同等だが、影響力ではそれをはるかに上回る。9月8日は事実上のプーチン政権幹部の選挙日になる。

 この街の経済的役割についても忘れてはいけない。モスクワはロシア最大の金融、ビジネス、行政の中心であり、ロシアの銀行の約半数と大手企業の本社がここに集中している。このような規模の資金を管理するためには、反政権派が国内の重要地域の知事選挙で二桁の勝利をあげなければならない。

 

セルゲイ・ソビャーニン氏

連邦政府からの候補

 2010年からモスクワ市長を務めているソビャーニン氏は、有力候補というだけでなく、この選挙の仕掛け人だ。政治学者のミハイル・レミゾフ氏は、最適な時期に辞職したと考える。「反政権派は今のところ成長不足だ」。

 政治学者のアレクセイ・マカルキン氏は、ソビャーニン氏には他の関心事もあるのでは、と考える。メドベージェフ大統領(当時)に任命されて市長となっていたため、復活した公開市長選で勝利すれば、自身の正当性を確認できるという。

 ソビャーニン氏はすでに、政策・計画のリストを発表したが、何よりもこれまでの実績で評価されるだろう。市の公園の整備や自転車専用道路の設置といった一連の取り組みは、社会が肯定的に受け入れている。一方で、街の中心部を敷板で舗装する案など、理解を得られていないものもある。

 

ミハイル・プロホロフ氏

有力な対立候補

 大富豪のプロホロフ氏は、より面白味のある人物だ。その強力なチーム、すなわち個性的な考え方を持ち、独立し、政権支持派の政治的策略に影響されていない人々の集団とともに、ソビャニン氏の有力な対立候補になると考えられていた。

 だがプロホロフ氏は6月16日、市長選には出馬しない考えを明らかにした。その代わり、立法議会の管理の方が市長の椅子よりも重要だとして、2014年 の市議会選挙に向けて準備をする考えだ。参戦しない正式な理由は、自身の事業を期日までに、市長選候補者に求められる状態に調整できないため。プロホロフ氏に事業調整が必要となるのはクレムリンの抵抗策だ。  

 6月1日に、地方自治体の首長(州知事、市長や副知事、副市長)が海外に銀行口座や事業資産を持つことを禁じる法律が施行されたので、プロホロフ氏は海外の資産をロシアに移さなければ立候補できない。

 

アレクセイ・ナバリヌイ氏

反政権派の代表候補

 プロホロフ氏が出馬しない意向を示したため、市長選は2人の候補者の闘いになる。つまり、ソビャーニン氏率いる現在の市政府と、アレクセイ・ナバリヌイ氏 を代表とする反政権派の闘いだ。ナバリヌイ氏の政策・計画はまだ発表されていないが、非公式な情報によると、街のインフラに重きを置く考えだという。

 例えば、ソビャーニン氏が交通問題を解決することができなかったため、反政権派はこれを切り札にしようと考えている。モスクワは反政権派が集中する街だ。昨年市 内で行われた反政権デモには、数十万人が参加している。

 今のところどのデモも、実感できるような成果をナバリヌイ氏にもたらしていない。そのため反政権派は、この状況を打開するために、人と資金を総動員しなければならない。だがナバリヌイ氏の”緊急応援”を必要とするこの夏の時期は、いわゆるクリエイティブ・クラス(創造階級)がモスクワから 遠く離れた場所で休暇を楽しむ時期なのだ。

 

その他の候補

 2人の闘いとは言っても、他にも多くの支持者を抱える候補はいる。3人のモスクワっ子が立候補受付直後に、自ら立候補を選挙委員会に届け出た。パウク (蜘蛛)のニックネームで有名なミュージシャン、セルゲイ・トロイツキー氏がその1人だ。これまでに、モスクワ郊外のジュコフスキー市やヒムキ市でも市長選に出馬しているが、残念な結果に終わっている。影響力のある政治家は、今回誰も出馬しなかった。