戦地で消えた報道写真家

ナタリア・ミハイレンコ

ナタリア・ミハイレンコ

国営通信「ロシア・セヴォドニャ」の報道写真家アンドレイ・ステニン氏が、ウクライナで8月上旬に消息を絶った。ウクライナ保安庁(SBU)は、ステニン氏がウクライナ軍兵士に対する拷問に関与したと主張しているが、いかなる証拠もなく、また本人がどこにいるのかもまったくわからない。フリーの報道写真家デニス・シニャコフ氏が、ジャーナリズムやステニン氏について語った。

 アンドレイ・ステニン氏が行方不明になっていることは、家族、本人、同僚にとって大きな悲劇だ。生存していて、家に帰ってこれることを心から願う。またウクライナ軍には、もし拘束されているのであれば、解放することを求める。

 

自分で自分の身を守る

 多数の報道写真家が現在、シリアの前線に向かっている。「ニューヨーク・タイムズ」紙の報道写真家になれることを期待しながら。誰もが自分はあくまでもジャーナリストであり、”エクストリーム写真家”ではないと考えているが、必ずしもそうではない。戦地に赴く前に、「なぜ行くのか」という疑問を自分に投げかけるよう求めたい。この戦争で一体何を訴えたいのかと。自分の写真が世界を変えられるという考えは馬鹿げているし、自分自身だってそんな風には信じていないはずだ。出版社は戦地に行くことを強制していない。これはジャーナリスト自身の選択であり、自分の安全は自分で守らなければいけない。

 若いジャーナリストが戦地でどのように人と接するべきかを知らずに死亡した事件を、いくつか知っている。出版社も守ることはできない。なぜならば、ジャーナリスト自身が情報源なのだから。つまり自分でリスクを背負っている。出版社は防弾チョッキの着用を義務付けることしかできない。着用しなければ、何かが起こった時に保険もおりにくい。

 

ジャーナリズムの倫理

 ジャーナリストは戦争の参加者か否かという倫理的な疑問は典型的だ。はっきりとした答えはない。軍事ジャーナリストの中には、モラルの原則がそれほど高くない者もそれなりにいる。そして報道写真家の多くは愚かでもある。地下鉄の車内で誰かが殴られていたら、被害者を助ける人は何人ぐらいいるだろうか。10%以下だと思う。ジャーナリストも同様である。戦争の被害者を助けることはないし、また暴力に参加することもない。残念ながら、カメラや手帳は勇気、誠実さ、モラルを高めない。

 戦地に赴くジャーナリスト向けの講義では、負傷した人を助けろと教えられる。1週間の講義の5日間はこれがテーマである。いざとなって私は自分の知識を活かしながら、死に物狂いの武装した集団に「止めろ」と言えるのだろうか。わからない。その勇気がわいてくればいいが。いざとなった時に自分がどんな行動をとれるかなんて誰も知らない。

 私の仲間の報道写真家セルゲイ・マクシミシン氏はいつもこう話す。「マスコミが来ると戦争が始まって、マスコミが去ると戦争が終わる」。残念ながらその通りだ。フォトジャーナリズムの写真の多くは写真家がいなければ成立しなかっただろう。写真家なしではそのような状況は生じなかったからだ。その逆の状況も信じたい。カメラがあったからこそ犯罪を防止できたのだと。だがそれはまれなケースであろう。

 

ジャーナリストの一致団結は

 ロシアのジャーナリストの社会が団結して、誰かを守ろうとしたという話は聞いたことがない。そのような社会などないし、今後もしばらくはないだろう。ジャーナリストがお互いに足を引っ張り合って、国営テレビが「二重国籍のジャーナリストが右派セクター(ウクライナの民族主義組織)の通報者だということがわかりました」などと言いながら、素晴らしいジャーナリズムをアピールするのが普通と考えられているのだから、社会など生まれてこないのである。

 そのため、独自のモラルや倫理に従い、自分側の誰かを支えるジャーナリストのグループが、今存在しているのだ。これは悪くない傾向だ。よくわからない誰かよりも、自分に近く、権威のある仲間から支えてもらう方が力強いことがある。残念ながら、自分に害を与えるために、あらゆることをしてくるグループもある。バレンツ海の逮捕後、私はそれを経験した(抗議船「アークティック・サンライズ」に乗船したグリーンピースの活動家とともに拘束され、ほぼ2ヶ月間勾留されていた)。同じことがステニン氏の身に起きているのだ。

 戦争などで何がジャーナリストをジャーナリストにするのかわからない。認定証でも出版任務証でもない。法的には必要になることがあるが。恐らく仕事と自己啓発から形づくられる権威であろう。

 ステニン氏の写真を見ていないから、戦地に赴きながらどのような課題を自分に課したのか、自分の仕事で何を伝えたのかはわからない。だが彼こそがジャーナリストである。だからこそ尊敬するウクライナ政府に再度お願いしたい。消息を絶った事実を捜査し、もし逮捕されているならば、その解放に努めることを。

 

デニス・シニャコフはフリーの報道写真家、ロイター、レンタ・ル、グリーンピースなどとも活動。写真は国内外のマスメディアで採用されている