ウクライナの最適なシナリオ

アレクセイ・ヨルスチ

アレクセイ・ヨルスチ

ウクライナ東部のドネツィク州とルハンシク州で行われた、事実上の独立の是非を問う住民投票は、ウクライナ情勢に根本的な変化をもたらさなかった。明らかなのは、住民投票の結果が世界で承認されることはなく、投票を尊重していたロシアでもそれはないということだ。

 ドネツィク州とルハンシク州がこれを理解していることは、その言動のトーンから推察可能である。投票結果とその後行われた独立宣言を、ウクライナからの脱退宣言ととらえるのは正しくない。これは全国対話が行われなければ、国の崩壊は避けられないという、大々的なデモンストレーションだろう。

 しかしながら、政権を転覆させて政権に就いたウクライナ暫定政府は政敵を敗者とみなすか、もしくはあらゆる方法で打ち負かすべき相手だと見ており、この心理が対話を妨げている。暫定政府の目的は明白。政府交代が続く時期に、ロシア語系住民が多数派となっている地域を、政治的プロセスから外すことである。

 

主要な当事者による対話の開始を 

 ロシアの立場は正反対だ。ロシアのセルゲイ・ラブロフ外相が述べたウクライナ国内の対話の必要性を、そのまま理解することが大切である。「(対話を)できるだけ早く実施することが必要だと確信している。くり返しになるが、アメリカ政府とウクライナ暫定政府の誰かが、この地域を対話に呼ぶことに反対している。このために、我々に用意があるにもかかわらず、欧州安全保障協力機構(OSCE)のディディエ・ブルカルテル議長が作成した『ロードマップ』が公表されない」

 ロシア政府の論理を理解するためには、最近モスクワで行われたウラジーミル・プーチン大統領と、OSCE議長国スイスのブルカルテル大統領の会談に戻る必要がある。ここでは「ロードマップ」と情勢解決のためのOSCEの役割強化について話し合われていたが、ウクライナ情勢打開の道は示されていない。ウクライナ問題は「ジュネーブ1」のロシアとアメリカの二国間協議で事実上解決していたが、ウクライナ情勢はすでに独自に発展してしまっているため、対立の主な当事者を対話に呼ばなければ、ウクライナ国外で解決するのは不可能だろう。

 プーチン大統領もこの話をしており、「円卓会議」を支持しながら、「欧米は情勢を行き詰らせるといつも、『問題解決の鍵はロシア政府が握っている、ロシア政府に全責任がある』と言いだす」と述べている。

 

プーチン声明の意味 

 ブルカルテル大統領との会談後、この問題におけるロシアの戦略を表した声明は、ウクライナ南東部の住民投票延期の要請と、ウクライナ大統領選後の住民に対する保証への疑問だ。この提案は事実上、ウクライナの暫定政府に国民対話を呼びかけたものであり、疑問のほうは、対話をどこから始めるか、その始点を示すものである。

 住民投票延期の条件は、キエフと南東部の対話開始であった。対話の条件となるのは、南東部の暫定政府反対派への軍事行動の停止と、4月17日付けのジュネーブ覚書に記されているキエフの過激派の武装解除開始のみである。「南東」運動のリーダーであるオレグ・ツァリョフ氏は、暫定政府がジュネーブの条件を順守し、国民がそれを承諾した場合に、住民投票を停止する用意があることを示した。

 会談で軽く触れられた反対派住民に対する保証の問題は、総じてウクライナ南東部の住人にとって非常に重要である。これは対話が行われた場合の議題を提起しているもので、暫定政府に対話を承諾させ、南東部の参加者を決め、主な問題を提起し、将来のウクライナ大統領(もっとも有力なのはピョートル・ポロシェンコ候補)に問題を引き継がせるのが狙いだ。これは希望が持てるし、大統領選後に譲歩が拒まれるということはなくなる。しかしながらポロシェンコ候補は今のところ、武力作戦以外のオプションを見出していないと述べている。

 ロシアは当然ながら、ウクライナでの大統領選実施に関心を持っている。合法的な協議の相手が必要だからだ。実施されなければ、ウクライナ政府のすべての連絡網が西部に偏ってしまい、そこで将来が決まってしまう。暫定政府はロシアが軍を投入し、大統領選を妨害すると国内外にうったえながら、パニックをあおり続けているが、このことは理解している。

 ロシアはウクライナの安定に関心を持っている。ウクライナ情勢への間接的関与は、隣国すなわちロシア政府にとって国際的、経済的、歴史的、人間的に極めて重要な隣国の混乱への、不可避の反応である。不安定な状態が続けば、数百年にもおよぶ両国の共通の歴史を崩壊させ、ロシアからウクライナを引き離すためのより効果的な政策の土壌が生まれてしまう。

 

なぜ連邦化が必要か 

 ロシアの他の関心もかなり明白である。それはウクライナの連邦化。将来的にウクライナ政府でいかなる変化があっても、ウクライナにロシアの影響力を残せるということは、隠すまでもない。だが連邦化はウクライナ自体にとっても重要な安定剤となり得る。将来的にどんな政府になろうとも、外交と内政でバランスの維持を図るようになるからだ。

 ウクライナ向けのロシアのシナリオは最適である。現実には国家機関の衰退が続き、取り返しがつかなくなる可能性があるからだ。そうなった時にロシア語系住人を孤立させようとする試みは、本当の国家崩壊と国内反発拡大を招いてしまう。

 今冬起こったことを革命として見ると、プロセスの不完全さが目立つ。この先にあるのは未曾有の経済的困難と社会の抗議だ。エリートの総意はほとんど得られていないが、ユリヤ・ティモシェンコ元首相を始めとする政治家には今後も政府を目指す用意があり、新たな独立広場の可能性も排除できない。ウクライナ革命(もしそのように呼んでいいのなら)は、エリートの交替、新人の登場、資産の再分割、大規模な協力に、まだ発展していない。対話が始まらなければ、前述のすべての悪影響が、非常に近い将来、現実になってしまうかもしれない。

 

ドミトリー・オフィツェロフベリスキー、ロシア高等経済学院準教授

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