ヤヌコヴィチ氏が解き放った「ジン(幽鬼)」

アレクセイ・ヨルスチ

アレクセイ・ヨルスチ

ウクライナでの出来事に煽られたビッグプレーヤーたちの認識と志向のせめぎ合いは、二十年にわたってイメージされてきた世界秩序の基本原則をすでに侵しつつある。対立の終焉までの道程はまだ遠く、最も危険な段階はこれからであり、大統領選挙が今月25日に控えている。

ブーメランの原則 

 ウクライナの状況は、さしずめ「ステールメイト」。政府は、無秩序と経済問題に手を焼いており、東部の「人民共和国」は、大半の住民に支えられた責任ある勢力たりえておらず、舞台上もしくは舞台裏にいる役者たちは、解決のレジームへ移れないでいる。深刻な相互の敵意のみが問題なのではなく、全体的な枠組みが必要である。然るに、二月半ばのキエフでの惨事以降、法体系は破壊され、状況は悪化の一途を辿っている。法令は、最初は革命的圧力に屈し、後には「そっちに許されるならこっちにも許される」というブーメランの原則に取って代わられたが、歴史的・文化的差異によって分裂した多様な国にあって、これは、急速な分極化をもたらす。

 マイダンにはアンチマイダンで応え、民族主義的グループは「アンチファシスト的」組織を生み、或るグループによる中央権力独占の試みは別のグループの疎外を招き、ウクライナ民族の自決権はクリミアでの鏡のごとき行動などに反映されている。プロセスを合法的枠組みへ戻すための民主的手続き(選挙)は、そうした枠組みの外で勝手に行われており、そのため、問題は、解決されずに深刻化している。

 

ロシアの立場の微妙さ 

 しかし、選挙なしでは、ウクライナは、最終的に法的真空状態へ陥る。1989年のポーランドの「円卓会議」や立憲会議のような国民和解のプロセスがあらゆる選挙に先行すべきだという考え方は正しいが、何を基準にメンバーを選び出すのかが不明である。政治システムの崩壊と国内の支柱の喪失は、渦を創り出し、国外の列強は、それぞれが自らの利益に適うとみなす者の呼びかけに応えて、その渦に文字通り巻き込まれている。

 ロシアにとって、クリミアの編入は、個別の歴史的・心理的モチベーションを有するユニークな事象であり、あらゆる点から判断して、ロシアの領土獲得への志向は、それで終わりを告げた。今後の目標は、反ロシア的気運でまとまる国家へと変容する見通しをウクライナに断念させることを目的としたウクライナの再編である。

 東部における活動家らの行動に対する支援は、ロシア外交の総体的ロジックとマッチしている。ウクライナ南東部にはロシアの「手先」がさかんに暗躍しているとの指摘があるが、今のところ、その確証は提示されていない。しかし、「自衛勢力」の敗北は許さないとの確固たる意向は、隠されていない。「自衛」の失敗は、ロシア指導部の失策とみなされるため、ロシアは、そうした勢力から距離を置くことができない。ロシアでは、ウクライナ南東部の反キエフ運動は、国家的骨組みの再建にあたって国のその部分の住民およびロシアの利益が考慮されることの保証とみなされている。

 

国際関係システムの組み換えの中で 

 とはいえ、ウクライナにおける立場上の対立は、ビッグプレーの一つのレベルにすぎない。ロシアは、自国の行動に対する西側の激しい反発に遭い、対立が不可逆性を帯びるなか、西側との心理的な「冷戦」ともいえる関係に陥りつつある。今のところ、慣性が働いているが、そのうちに、国際関係システムのペレストロイカ(再建)やグルーバル市場への統合を拒絶するような経済モデルの修正が求められよう。ロシアが経済的影響をどれほど正確に割り出しているかは不明だが、西側の反応はすでに考慮されており、損失は許容の範囲内と評価された。

 ロシアの狙いは、ポストソ連時代に終止符を打つような「限界線」を厳格に画定するとともに、新たな世界秩序が形成される前に自国のステータスをぐんと向上させることである。ロシアは、ウクライナ問題では決して譲歩しない。クリミアにおける決然さは、ロシアの“本気度”を示したばかりでなく、多くの点で退路を断つものでもあり、もはや、引き下がるわけにはいかない。

 

広範な封じ込めへ移行 

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日米も日露も大事

 米国は、年頭まではさほど大物とはいえない人物がウクライナ問題を担当していたが、いよいよ本腰を入れざるを得なくなってきた。原因は、無論、ウクライナそのものにあるのではなく、アメリカが久方ぶりに自国の行動に対する厳しく妥協を許さない抵抗に遭ったことにある。アメリカは、ロシアのあれほどパワフルな反応を予想しておらず、その結果、認識が一変した。ウクライナで今回の事態が生じるまで、米国は、ロシアを頭痛の種ではあってもファンダメンタルな問題とはみなしていなかったが、今では、ロシアを完全なライバルではないにしても挑戦者になりうる国とみなしている。

 アメリカは、ウクライナの内政を構成する濃い沈殿物の化学的成分を究明しないであろうから、もっともなスキームが働いている。政権にもいろいろあり、暴君への抵抗のうねりのなかで出現した不完全ではあれ民主主義を愛する政権もあれば、「悪の帝国」の後継者たちによってインスパイヤーされて方向づけられる暴徒もいる。

 米国は、対露制裁によってロシアの姿勢を変えられるとみているが、その可能性はごく僅かであり、ますます広範な封じ込めへ移行しつつ、圧力を強めることになろう。問題はウクライナではなく原則なので、対立の溝はますます深まる。

 

グローバル経済に対する“政治”の優位 

 対露制裁は、長期的効果を有する可能性がある。米国が名実ともに世界の経済システムの主管者たることをこれほど明白に誇示しているのは、おそらく初めてだろう。アメリカの制裁の対象となる金融機関は、Visaとマスターカードの決済システムを「停止」しており、グローバルなIT企業は、「好ましからざる」クライアントとの関係を断つ用意がある。

 こうした措置は、以前にも講じられたが、その対象は、ロシアより政治的・経済的重要度がずっと低くロシアほどグローバル経済に組み込まれていない国々であった。ロシアに対するそうした手段の行使は、それでなくとも米国の同盟国ではない他の大国が直面している問題をさらに尖鋭化する。つまり、主導的な国の利益がいとも簡単に政治的影響を被るとしたらグローバル経済システム(たとえばインターネットといったグローバルシステム)は信用できるのか、という疑念が生じ、世界の貿易・金融セグメンテーションおよび統一ルールに代わる経済ブロックの創出というトレンドを背景に、その種の制裁圧力は、政治的さらには経済的な世界の多極的リストラクチャリングに弾みをつける。

 こうしたスケールの大きなパレットを前にすると、すべてがほんの些細なことから始まったとは信じられない。ヴィクトル・ヤヌコヴィチ氏は、半年前にEUとの連携に関する協定の調印を延期したとき、それが「ジン(幽鬼)」を解き放つことになると予想できただろうか。

 

フョードル・ルキヤノフ、政治学者、外交防衛政策会議議長。

元記事(露語)