米人スパイ騒動で反米気運は高まるのか

=ニヤズ・カリム

=ニヤズ・カリム

在モスクワ・アメリカ大使館政治部3等書記官としてロシアに潜入していたアメリカ中央情報局(CIA)の職員、ライアン・クリストファー・フォーグル容疑者が、モスクワでロシアの情報機関の職員を協力者としてスカウトしようとして身柄を拘束された。私は未来の政治的イスラムをテーマとした、国際諮問集団 「バルダイ・クラブ」の中東会議が行われていたモロッコで、このニュースを知った。

 アメリカの敵国であるイランの政治学者、パレスチナ自治区ガザ地区の「ハマス」の代表、レバノンの「ヒズボラ」の代表を含むこの会議の参加者は、この時、新しい中東地域におけるロシアと西側諸国の相互活動の展望について話をしていた。そこにスパイ騒動のニュースが流れたわけだが、ロシアとアメリカの間で今後起こり得る関係悪化について語る参加者は誰もいなかった。この一件は短期的観点においても、中期的観点においても、ロシアとアメリカの対話に影響す ることはないと解釈したようだ。

 

抑制のきいた反応 

 ロシアのセルゲイ・ラブロフ外相が、スウェーデンでアメリカのジョン・ケリー国務長官と会談する前に、フォーグル容疑者拘束の準備について知っていたか 否かについては、いろいろな憶測があるだろう。だが両者がこのスパイの物語を突き詰めるために時間を割かなかったことは、情報機関の問題に外交指導者が関 与したがらなかったことが見て取れる。

 今年のもっとも重要な外交行事の一つを目の前にして、デリケートな問題にあえて触れなかったことは明らかだ。この行事とは、ロシアと西側諸国が、シリア紛争の各勢力に影響力をもつ関係者すべてを集めようとしている、2回目の国際シリア会議のことだ。

  外務省が拘束後にフォーグル容疑者を”ペルソナ・ノン・グラータ(好ましからざる人物)”と呼んだのは自然な反応だったが、それ以上に発展させることは なかった。また、テレビで大きく報道された割には、クレムリンの反応も非常に落ち着いており、両国の信頼を損なうような違法な外交活動に対して遺憾の意を表明するにとどめた。

 

おおっぴらすぎた逮捕劇 

 しかし、なぜフォーグル容疑者の拘束が、これほどおおっぴらに行われたのだろうか。ロシアの情報機関職員が匿名でアメリカの新聞に説明したように、フォーグル容疑者が”図々しかった”(あからさますぎた)ことだけが原因なのだろうか。

 他にも多くの原因が存在する可能性がある。ロシア連邦保安庁(FSB)の作戦が、アメリカのボストン・テロ事件の捜査と直接的に関係があったからというのが、より可能性の高い仮説だ。

 あのテロ事件は、ロシアとアメリカの情報機関の論争のきっかけとなった。ロシア側は、アメリカの情報機関に対してツァルナエフ兄弟に関する警告を以前から行っていたにもかかわらず、無視されたと主張しているし、アメリカ側は、ロシアの情報機関が情報を隠したとして非難している。

 

ボストン・テロと関係?

 フォーグル容疑者は数百万ドルを用意して、ツァルナエフ兄弟などの関連情報を保持している、ロシア情報機関のカフカース問題の担当者をスカウトしようと した。アメリカの情報機関は、この情報がボストン爆破事件に関するアメリカの推測を証明し、さらにホワイトハウスに自分たちの”無実”を証明できると考え たのかもしれない。CIAの押しの強さは、フォーグル容疑者を拘束したロシアの情報機関の関係者をいらだたせた。

 このスパイ事件は何の爪痕も残さないわけではない。特にマイケル・マクフォール在モスクワ・アメリカ大使は、フォーグル容疑者の活動を知らなかった可能 性があるものの、その評判に影響を受けるだろう。今後はロシア人と対話するたびに、このスパイ事件に関する難しい問いに答えなければいけなくなる。

 それでもロシアの専門家や政治家の多くは、ロシア社会で新たな反米気運が高まるとは思っていない。これまでずっと敵対してきたロシアとアメリカの情報機 関の間に起こった、極めて局部的な問題だと見なされているからだ。そしてアメリカのメディアが伝えているように、政治的な色合いは持ち合わせていないようだからだ。