シベリアの発展をモスクワに任せてはいけない

「ロシア製の松」 ニヤズ・カリム

「ロシア製の松」 ニヤズ・カリム

第10回クラスノヤルスク経済フォーラム(2月14~16日)において、ロシア東部の発展について、さまざまな方法が提議されたが、シベリアの問題を、国営企業、財団、省庁が解決できるとは思えない。

 第一に、2012年度ロシア連邦輸出収益(約4100億ドル≒38兆円)の75%ほどは、ウラル以東で採掘されたか、あるいは生産された商品によってもたらされているからだ。2012年度のシベリアおよび極東の経済に対する投資総額は、まだ数字がでていないものの、約620億ドル(5兆8000億円)と試算されている。政府がシベリアを発展させるつもりなら、これらの収入の一部をこの地域に残すことが正しい。

 

本当に必要な投資とインフラを 

 第二に、今日正しい投資先を決められるのは市場だけだからだ。政府と国の機関は、大規模で回収不可能なプロジェクトにばかり投資しようとしている。

 極東・シベリア発展戦略に記載されているのは、北極圏の市町村の発展、本土とサハリンを結ぶ橋、ベーリング海峡の海底トンネルなどだ。モスクワから見れば、これらはおもしろいプロジェクトなのだろうが、サハリンから本土に渡る人は年間16万人弱だし、アメリカ合衆国のアラスカ州までトンネルを掘ったら、ロシアと同州の年間貿易額の数倍も費用がかかる。シベリア鉄道を使ってアラスカ州に輸出されるのは、鉱石と石炭ばかりだ。

 第三に、シベリアは現在、巨額の公共投資を必要としており、その課題をしっかりと解決できるのは、連邦政府ではなく地元政府だからだ。サハリンの橋、アラスカのトンネル、北極海沿岸地域再開発、および複数の鉄道プロジェクトには、10年で1500億ドル~2000億ドル(約14兆円~19兆円)、すなわちソ連崩壊後にウラル以東で投じられた住宅建設費用総額の1.5倍もかかる。

 

シベリア問題はモスクワのせい? 

 シベリアはロシアでも特別な地域だ。どの時代においても、国内の活動家が、能動的あるいは受動的に集まって来た場所である。ロシア人はアメリカ人よりも先に太平洋岸に街を築き、またアメリカ人と同時に、そこまで鉄道を貫通させた。

 だが、シベリアがモスクワの管理下に置かれた従属的地域として発展し始めると、途端にアメリカに大きく遅れを取るようになった。シベリア初の大学を創設したのは、シベリア征服後300年だが、イギリス人はニューイングランドを植民地化してから、わずか50年で大学を創設している。

 ロシア政府は、極東・シベリアの発展のために、新しい国家機関を創設するのではなく、まったく別の対策を講じるべきだと思う。

 

資源の利益を還流せよ 

 まず、“予算連邦主義”において、変革の大きな第一歩が必要だ。天然資源で確保される税収の少なくとも4分の1はこの地域の発展に割り当て、その配分項目は、市民が幅広く参加して決定するようにする。理想的な参加手段は、地元の住民の投票や意見聴取だ。これによって連邦の立場が損なわれることはない。

 次に、シベリア経済の効率を、本格的に高めることが必要だ。新たな北方の街を築くのではなく、短期交代作業班による地域開拓方法を展開することが必要だ。

 シベリアには決して人がいないわけではない。ウラル以東の人口密度は平均して1平方キロメートルあたり2.26人で、アラスカ州の0.49人、カナダ北部の0.03人(!)よりもはるかに高い。問題は人の使い方であって、国営企業(ロシア鉄道を含む)の生産性は、ヨーロッパあるいは日本の6分の1以下だ。今日の課題は、領域の拡大ではなく圧縮であり、経済効率をあげることである。

 さらに、環太平洋地域の政治と経済において、シベリアの役割を定義しなおすことが必要だ。この地域の経済は中国の34分の1、カリフォルニア州の6.5分の1にすぎない。環太平洋の経済活動に加わり、中国、韓国、日本、オーストラリア、カナダ、アメリカとの関係を構築する必要がある。太平洋と聞いて、アジアだけをイメージしてはいけない。この地域に属する国家のGDP全体を見ると、アジア諸国が48.6%、北米・中南米諸国が46.1%を占めている。ロシアはこの地域における自然なバランサーであって、中国の忠実な従者ではないのだ。

 

ウラジスラフ・イノゼムツェフ、脱工業化社会研究センター所長、ロシア連邦地域発展省・幹部会議委員

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