ロシアの若者向けに“領土”をアピール

ニヤズ・カリム

ニヤズ・カリム

 日本研究家のワシーリー・モロジャコフ氏は、「新設される領土・主権対策企画調整室は、単なる予算消費の組織となるかもしれない」としながらも、南クリル諸島(北方領土)問題に関する対外プロパガンダの内容を変化させ、漫画、アニメなどのソフト・パワーで浸透させる、といった可能性も排除していない。

 ロシア科学アカデミー東洋学研究所主任研究員、政治学博士、拓殖大学教授のワシーリー・モロジャコフ氏は、1995年から日本で暮らしている。領土問題に関するプロパガンダについて、自身の見解を語った。

 

漫画、アニメでロシアの若者を標的に? 

 日本が新しいプロパガンダを打ち出してくる可能性について、モロジャコフ氏は懐疑的だ。「日本の官僚にはこのような面で、特別な創造性があるわけではない。他国の姿勢を過小評価するか、時には無視してしまうところが日本の特徴だ。これは領土問題で顕著に表れてくる。それもロシアに限ったことではない」。

 しかしながら、ロシアの若者に重きを置いた、新しいプロパガンダを行う可能性もあると言う。「漫画、アニメ、その他のソフト・パワーを使ってそれが行われても驚かない。日本人の多くは、10年前ではなく、今ロシアで『日本ブーム』が起こっていると信じ込んでいる」。

 そういうプロパガンダが行われる場合、主に歴史的観点を中心にした主張になる可能性がある。日本は、南クリル諸島が「日本固有の領土」であることをロシア人に再度わかりやすく説明すれば、ロシア人がそれをしっかりと理解し、自国の大統領に日本に領土を引き渡すよう求めるようになるのでは、というわけだ。

 

90年代とは空気が一変 

 日本は1980年代末と、特に1990年代にかけて、ロシアで活発なプロパガンダを行った。そして、たくさんの書籍を用意した。そのうちの1冊が、2000年に出版された「日露平和条約締結への道標-ロシア市民からの88の質問」だ。

 ロシアの専門家もこれに対抗する形で、「ロシアと日本 見落とされた平和条約への道標」を出版している。

 「1990年代は、南クリル諸島が日本固有の領土で、ソ連が不法に日本から奪ったものだという意見が、ひんぱんにロシアのマスコミに掲載されていた。ロシア人の多くがそれを支持し、一部の日本研究者ですらそう考えていた。『奪ったものは返さなければ』という観点が、1990年代は政治的に正しいとされていた。だが現在のロシアの世論や専門家社会は、異なる観点に変わっている」。

 ロシア人の対日感情については、このように話す。「幾度となく行われた世論調査の結果が示しているように、日本に対して悪い感情を抱いているロシア人の割合はそれほど高くないが、沿海地方とサハリン州という地域別の結果では割合がとても高くなる。今は日本にとって活動が難しい時期だろう」。

 

平和条約がないよりはあるほうがましだが… 

 同氏はこう続ける。「日本人は1990年代、ロシアと平和条約が結ばれれば、日本からの投資が一気に拡大すると宣伝していた。ロシアが貧しい国で、日本の資金を得られるなら何でもするだろうと日本で考えられていた1990年代には、これはアクチュアルだった。そして多くの日本人が、なぜロシア人はそのような好機に目を向けないのだろうと、不思議に思っていた」。

 日露関係についてはこう話す。「日本はロシアの外交上の最優先国ではなく、ロシアは日本の最優先国ではない。それでも、平和条約を結ぶことが好ましい。領土問題を抱えるよりも、双方が最終的に認めた境界線がはっきりとある方が良い。ロシア政府は領土問題の存在を認めている。だが、1956年から両国が平和条約なしの状態でいることもあり、平和条約が結ばれたからと言って、両国の関係が劇的に変わるということはないだろう」。