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ワレンチン・パジェトノフさん(75)はロシアのヒグマを飼育できる世界で唯一の人かもしれない。
パジェトノフさんの人生はある時大きく変わった。若き狩猟者から、生後まもなく母親を失った子グマを保護する分野の、先駆者の一人になった。
このような子グマは、密猟者によって母グマを殺され、みなしごになっていることが多い。子グマが誕生する12月を国は狩猟禁止にしているが、密猟根絶にはいたっていない。
生物学を専攻していたパジェトノフさんは、35年前に狩猟をやめ、以来クマの保護に携わっている。現在、危機的な状況は収まり、クマの個体数は安定している。だがいつ減少するかわからない。
パジェトノフさんはヒグマのリハビリ方法の考案者。その技術は子グマのみならず、サーカス、演劇の世界にいた大人のクマにも応用できる。海外の専門家もすでに、この技術を活用している。
保護を始めた当初、パジェトノフさんの収入はとても少なかった。飼っていた牛は、パジェトノフさん一家と子グマにミルクを与えた。
パジェトノフさんの愛と献身を、息子のセルゲイさん、次に孫息子のヴァシリーさんも受け継いでいる。3人は今、ともに手をとって活動している。子グマが自然界に戻れるまで世話をする。
1996年まで、パジェトノフさん夫妻と子どもだけでこの活動を行っていた。その後国際動物愛護基金(IFAW)が注目し、活動の効率化を可能にする補助金を割り当てた。
IFAWの補助金は主に、クマを発見現場から輸送するための自動車、リハビリ・センター、またクマが完全に回復し、野生界に適応できるようになった後の生息地に戻す活動にあてている。
モスクワの西400キロメートルに位置するブボニツィ村のリハビリ・センターには、クマのリハビリに必要な機器が導入され始めている。
子グマは通常、生後数週間から数ヶ月でセンターに収容される。自然界の生息地に戻すことができるように、人に慣れさせることなくエサをやることが、母親を失い、リハビリ・センターに来た子グマの世話の重要な点である。人間は世話をしてくれて、エサを与えてくれる良い存在だと、クマが思わないようにしなければならない。
「クマは人間を警戒しなければならない。さもないと、人間にとっても、クマにとっても、危険な状況になってしまう」とパジェトノフさん。そのため、人間とクマの接触を最小限に抑え、3ヶ月経過後は、人間のにおいを隠す特殊な作業着を着て接触する。
「もっとも幸せな瞬間は、クマを自然の生息地に戻す時。クマに第2の人生を与えたと思える」と孫息子のヴァシリーさんは話す。