両足のない写真家

セルゲイ・アレクサンドロフ氏はサンクトペテルブルク出身の写真家で、登山中の事故で両脚を失った。写真のキャプションは、登山についての同氏の執筆から抜粋したものだ。

セルゲイ・アレクサンドロフ氏はサンクトペテルブルク出身の写真家で、登山中の事故で両脚を失った。写真のキャプションは、登山についての同氏の執筆から抜粋したものだ。

Sergei Alexandrov
セルゲイ・アレクサンドロフ氏はサンクトペテルブルク出身の写真家で、登山中の事故で両脚を失った。
ここで過ごす一瞬は、凡庸な日常的存在を何千年も経験するよりもはるかに鮮明に人生を経験させてくれる。私は一歩進むごとに危険の限界に近づいていく。自分は何という長時間をソファーでだらしなく無駄に過ごしたことだろう。
北極圏の夜から生まれ、蛇のようにうねり、触れる者を氷の冷たさでやけどさせる何頭もの“ドラゴン”を目にした。
北極圏の夜:好き勝手に吹く風によって雪片が舞い上がると、鉄の火花のように凝縮され、霧の雲の中に蓄積していく。すると今度は驚異的な大嵐へと変貌する。
私は恐れを感じない。死はすぐそばに待ち受けているが、これほどの安堵感と明晰さで死の目を見つめたことはこれまでなかった…
生きているとはこういうことか!一回一回の鼓動と呼吸を実感できる幸福感。身体のすみずみまで生命力と計り知れない存在の喜びがみなぎっている。
全身で北方風を向かい受ける!これこそが大自然の力そのものだ。没入と忘我の域…
ああ、山よ!こう叫ばずにはいられない。氷の針、この不屈の、克服を阻む氷のような風。地平線上に身を隠す場所はない。
シークインのように光り輝く強風は、その勢いをさらに増して、力果てた旅人に容赦なく吹き付ける。
私の肺はもうもたない… ついに限界に達した。これ以上この命を維持できそうにない… 敗北を認めて私は北方風を後にする… しかし、何度でもソファーから身を起こしてこの北方風のもとに戻らずにはいられないのだ 。いつかきっと、お前を胸一杯に吸い込んでみせるぞ。