1990年代に育ったロシアの子どもたちを怯えさせたもの

Alexander Rou/Gorky Film Studios, 1965
 怯えさせたと言っても、今回取り上げるのは、ホラー映画や怖い話ではなく、本来恐ろしくないはずのものである。善良なアニメの登場人物、テレビのオープニング映像、啓蒙番組など、一見するとまったくたわいないものなのに、現在30代のロシア人たちをいまだに身震いさせる恐怖のものがあったのである。

1. テレビ制作会社VIDのオープニング画面   

 1990年から1997年にかけて、第1チャンネルで放送されていた、暗闇からゆっくりと不気味な頭が浮かび上がるオープニング映像は感受性の強い子どもたちを恐怖に陥れた。皮肉にもこのオープニング映像の後には実にさまざまな番組が放映された。情報分析番組であることもあれば、たとえば人気のクイズ番組「ポーレ・チュデス(奇跡の場)」などバラエティショーであることもあった。視聴者の中には、オープニングに現れる顔は当時のロシア大統領、ボリス・エリツィンだと信じている人もいた。しかしそれはもっと恐ろしい形相をしていた。

 しかし実際には、製作者たちは誰かを怖がらせるつもりなどまったくなかった。制作会社の創設者であるウラジスラフ・リスチエフは、当時東洋民族芸術博物館で働いていた妻のアルビナ・ナジモワとともに、「VID」のオープニングを古代中国の哲学者、頭にカエルが乗った郭象のお面を使って作ることにしたのである。このお面は賢明さと幸福を象徴するものであった。

 ではなぜこのお面が人々を怖がらせたのか?第一に制作の過程で、お面の耳が消えてしまっていたこと。第二に頭に乗った恐ろしい塊のようなものをカエルだと認識するのが難しかったこと。そして第三に笑顔が不気味だったこと。このお面はオリジナルそのものもちょっと強面であったが、その顔はテレビを通すとかなりのしかめ面に映ったのである。

 この顔をそれほど恐ろしくないものにするため、デザインは何度となく変更された。最後のバージョンでは、中国の哲学者の頭に乗っているものがカエルであることは識別できた。

2. アニメシリーズ「ヌ・パガジー!」(今に見ていろ!)  

 ロシアで見たことがないという人を探すのは難しいというほど有名なオオカミとウサギを主人公にしたアニメである。毎回、オオカミがウサギを追いかけるのだが、ウサギを捕まえようとするオオカミの試みはいつも失敗に終わる。

 しかし、このたわいないソ連のアニメも、テレビの前の子どもたちを心底怖がらせたのである。1984年に放映された14回目の放送でのことだ。

 オオカミを追いかけて、しつこいロボットのウサギが「ウサギ、オオカミ」という言葉を繰り返しながら若い技師の家に入ってくる。しかも自分自身とオオカミを交互に指差しながら。ロボットの外見はかわいく描かれているのだが、このシーンは見る人をかなりイライラさせた。オオカミが我慢できずにロボットの頭を叩くと、ロボットは赤い目をした恐ろしい四角のロボットに姿を変えるのである。

 製作者がなぜこんなロボットを登場させようとしたのかは分からないが、表現の仕方に力を入れすぎたことは明らかである。

3. テレビ番組「わたしの家族」のコーナー「告白のマスク」

 1990年代から2000年代にかけて、ロシアのテレビでは家族をテーマにしたトークショー「わたしの家族」が放送されていた。その中に、マスクをかぶった人が、とてもデリケートな話を匿名でするというコーナーがあった。中に入って話すゲストは毎回変わったが、そのマスクだけは毎回同じものが使われた。

 マスクは美しいもので、ヴェネツィアのカーニヴァルに出てきそうなものであったが、子どもはそのマスクにゾッとさせられた。

 何がそれほど怖かったのか?たとえば、空虚な黒い瞳。それにマスクはヴィジュアル的にゲストの頭を大きく見せた。またマスクをすると女性なのか男性なのか区別がつかなかった。加えて、マスクをつけた出演者が誰なのかを特定させないため、声を変えてあり、その人工的な声も子どもには恐怖心を感じさせたのである。

4. 映画「モロスコ(Jack Frost」に出てくるクマ

 映画「モロスコ」は1964年に公開され、長きにわたって、ロシアのお正月に上映されていた。映画のストーリーは、恐ろしい継母が夫に、酷寒の中、自分の娘を森に連れていくよう命じるというものだが、最後はハッピーエンドで、誰も死なない。

 しかし映画の中には意地悪なイワンが登場する。そしてほかでもないその意地悪な性格ゆえ、彼は“酷寒じいさん”によって、クマの姿に変えられてしまうのである。クマと言っても、全身ではなく、部分的に、である。

 イワンの頭はクマになり、体は人間のままだった。最終的に、イワンは心を入れ替え、元の姿に戻る。この映画を観たソ連とロシアの子どもたちの精神状態にどのような影響が及ぼされたのかは分からない。

5. アニメ「コサック」に出てくる悪魔

 3人のコサックを主人公にしたアニメシリーズ「コサック」は1960年代の末に「キエフナウチフィルム」スタジオで制作された。

 アニメでは、愉快なコサック3人組がサッカーをしたり、旅行をしたり、宇宙人と出会ったりする。しかし1984年に再び制作が始まったシリーズは小さな視聴者をかなり怯えさせた。

 シリーズ「コサック」には悪魔や魔女、その他の霊がたくさん登場する。そのほとんどは面白おかしい姿に描かれているが、その中に体と同じくらいの大きさの巨大な頭を持ち、鼻も耳も巨大で不気味な「リーダー」がいた。

 しかし幸いにも、アニメのエンディングは、勇敢な3人のコサックは、「リーダー」を含むすべての敵に勝ち、友人の結婚式に出席することができたというものとなっている。

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