イワン・ザイチェンコさんはエカテリンブルグでは名の知れたビジネスマンである。レストラン経営とデリバリーサービスを始めて10年、そして最近、食品店「ジズニマルト」をオープンした。食品店で売っているもののほとんどが、新鮮な乳製品や野菜、果物、ハーブ、そのまま持ち帰ることのできる惣菜など、賞味期間が短いものだ。そこでイワンさんは、3月に、賞味期限の切れた食品を無料で人々に分配しようと思いついた。「法的には販売してはいけないものですが、まだまだ食べられるものなのです」。イワンさんはロシア・ビヨンドの取材に対し、こう説明した。
彼はこのアイデアをソーシャルネットワークに投稿し、ユーザーから非常に良い反響を得た。エカテリンブルグでそのような行動を起こした人はこれまでいなかったからだ。彼はこう書いた。「多くの人がものを食べるためにゴミ箱を漁ったり、店が廃棄した賞味期限切れの食品を探している。わたしのこの行いが、誰かが人間としての尊厳を守りながら、空腹を満たすための助けとなるよう願う。また他の店も積極的にこうした手段を使ってくれれば嬉しい」。
しかし、この行動に目をつけたのは他の店ではなく、ロシア消費者権利保護福利監督庁であった。数日後、彼の店には検査が入り、当然ながら、賞味期限切れの食品が見つかった。イワンさんは10万ルーブルから100万ルーブル(およそ17万円から170万円)の罰金と90日間の営業停止を警告された。これは彼の小さな商店は閉店を意味する罰則である。しかし彼は幸運にも1回目と言うことで、「深刻な警告」で済んだという。
ロシア消費者権利保護福利監督庁でイワンさんは、ロシアの法律では、賞味期限切れの食品を店で扱うことは禁止されているとの説明を受けた。販売されているか、無料で配られているかは重要ではないという。
たとえば、商店が賞味期限切れの食品を廃棄するのを法律で禁止しているフランスとは異なり(慈善団体などに配布する必要がある)、ロシアでは古くなった食品を普通のゴミ箱に捨てることすら許されていない。残った食品を利用するためには、特別な蓋つきの容器と特別なゴミ箱が必要なのである。ロシア消費者権利保護庁はこの規則について、捨てられた賞味期限切れの食べ物をたまたま食べた人が中毒を起こしてはいけないからと説明する。大きなチェーン店の場合は、売れなかった食品は供給者に返品し、補償金を受け取るシステムになっている。
イワンさんは言う。もちろん、法律を犯す気はないが、「残った食べ物を捨てるのはもったいない」と。イワンさんの計算では、店では毎日、3,000ルーブル(およそ5,050円)ほどの食品が賞味期限切れで売れ残っている。しかしそれをなんとかする方法はあるのである。
彼は次のような例を出して話す。「もしあなたがその日の夜に賞味期限が切れるパンやクッキーを買ったとして、次の日もそれを食べることができます。固くなることもありません。惣菜についてはもっと面白い状況です。賞味期限は12時間しかないのですが、3日は保存できるのです。「製造者は普通、保存期間を賞味期限に上乗せしているからです」。
とりあえずイワンさんは、売れ残った食品を店員に分けることにした。困窮した人に提供する食事を作るためには、自分の和食レストラン「スシコフ」で使っている食品を使うことにした。毎晩、レストランではかなり多くのサーモンや野菜、フルーツが残る。これは普段、捨てているものだ。イワンさんは、これは賞味期限切れのものではなく、すべて新鮮なもので、単に、メニューにある料理を作るのには適していないだけだと強調する。以前、レストランでは、慈善団体など他の組織に提供していた。しかし4月の末、レストランの従業員たちがサーモンの残りで魚のスープを作り、それを希望者に配るようになった。イワンさんは1週間に2回、このスープを振る舞うと約束している。
これについてイワンさんは、今のところ監督機関側に問題は生じておらず、本当に助けを必要としている人の役に立つことができとても嬉しいと話している。町の市民たちも彼に対して善意を見せている。「おととい、ある女性がお礼に店の床を掃除すると言ってきてくれたのです。わたしはとても嬉しくて、この世の中をもっともっと好きになっていくと感じました」。
人々のこうした反応を見て、イワンさんはこのような慈善活動をさらに広げようと決意し、売上のいくらかをウラルの孤児院に送る特別メニューを作ったのだそうだ。
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