ロシア政府が新たな決済カードを作る

画像提供:セルゲイ・ファデイチェフ/タス通信

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ロシア政府が国家決済カード・システムの原型となるカードを作り、すでに計10行の銀行が興味を示している。複数の専門家によると、この新カードが普及するには数年を要するが、国営企業に使用を義務付けることでそのプロセスが早まる可能性もある。

 ロシア政府が国家決済カード・システムの原型となるカードを作り、5月29日にモスクワでそのプレゼンテーションを行った。ロシアの経済紙「コメルサント」が伝えた。新カードは「ミール」(世界、平和などの意味)と名づけられ、来年度から大量に発行される予定だ。

 そのプレゼンでロシア中央銀行のオリガ・スコロボガトワ副総裁が述べたところによると、共同ブランドでのカード発行に、アメリカのマスターカード(MasterCard)や、日本のクレジットカード会社「JCB」が興味を示している。副総裁によれば、新カードの創設者たちは、将来のパートナーとして、BRICS(ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカの新興5カ国)の決済システムを検討している。

 「この新システムの創出は非常な急ピッチで進んでおり、そのためにいくつかの技術的な問題も生じている。カードが国民の支持を得られるかどうかは、すぐには分かるまい」。こう釘を刺すのは、投資会社「UFS」のイリヤ・バラキレフ氏だ。

 

対露制裁がはずみに

 この決済カードの発行は、ロシア独自の金融システムの創設という大規模なプログラムの一部をなしている。カード発行のきっかけになったのは、ウクライナ危機をめぐる米国の経済制裁発動で、その結果として、国際決済システムは、制裁の対象となった銀行の決済を停止した。

 こうした状況の再現を防ぐため、2015年の4月1日、ロシアで国家決済カード・システム立ち上げられ、それに基づいて、ロシア国内の決済が行われるようになった。これに、ビザカードとマスターカードも加わっている。今回の決済カード発行は、こうした一連の改革の第二段階をなすものだ。

 「国家決済カードを創るアイデアは、直接、制裁と関係しているわけではない。なるほど、そのプロセスが活発化したのは制裁発動後のことだが、構想そのものは、それ以前にも、多少なりとも話し合われていた。制裁発動で、ロシア国内の決済システムがよりアクチュアルになっただけのことだ」。こう言うのは、投資会社「ルス・インヴェスト」のドミトリー・ベデンコフ分析部長だ。

 ロシア中銀のデータによれば、この新カードを発行する用意のあるロシアの銀行は10行で、そのなかには、制裁を科されている銀行「ロシア」とクリミア半島の金融機関が含まれている。しかし、共同ブランドでのカード発行は、これらの銀行には提案されないという。

 ロシアの大手証会社「フィナム」のアナリスト、アントン・ソロコ氏によると、カードを物理的に作るだけなら、そんなに金はかからず、金融機関の他のオペレーション(例えば、マーケティングに関するもの)や、賃金支払などに要する金額とは比較にならない。

国営企業に新カード使用を義務付け?

 「この新カード『ミール』のモデルがテストに合格し、望ましい結果を出すまでには、さらに少なくとも数週間はかかる」。ロシア経済・国家行政アカデミー・金融銀行学部のワシリー・ヤキムキン准教授はこう言う。同氏によれば、作業を加速するために、ロシアの新決済カードは、ビザカード、マスターカードや中国のクレジットカード会社「銀聯」と協定を結ぶ可能性があるという。

 さらに、バラキレフ氏によると、決済システムの分野は、市場が何らかの調整に対し極めて敏感であるため、行政が非常に多くのことをやれる余地がある。とくに、国は、国営企業に対して新カード「ミール」の使用を義務付けることができる。そうなれば、多数の大企業がこの新システムを使うようになるだろうとのこと。

 しかも、バラキレフ氏によれば、当面市場の最大手はビザカードなので、他の国際システムも、何らかの利益に与るために、共同ブランドの製品を熱心に出すのだという。

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