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覚書は年間300億立法メートルのガスを「アルタイ」パイプライン経由で中国に30年間輸出することを定めている。ミレル社長によると、正式な契約は2015年末までに結ばれるという。
覚書はまた、輸出量および期限、テイク・オア・ペイ(買い手の事情によって契約されたガスの引き取り量を割る場合に全量分の支払いを行う買い手の義務)、国境のガス受け渡し地域なども定めている。両者は今後、売買契約、政府間協定を結ぶ。契約額すなわちガス価格は定められていない。
ロシアの投資分析会社「インヴェストカフェ」のアナリスト、グリゴリー・ビルク氏はこう話す。「東ルート(ガスパイプライン「シベリアの力」)経由の価格よりも安くなることは明らか。インフラ(輸送および採掘)への投資額がはるかに少ないため」
ロシアの投資会社「マグタ・ファンド」資産管理者のプラトン・マグタ氏によると、経済的に妥当な中国向けのガス価格は1000立法メートルあたり380~400ドル(約3万8000~4万円)だという。主な供給源が極北(ヤマル、サハなど)条件のガス田であることが影響している。
ガスプロムは最近、中国との協力を加速させており、世界最大の「シベリアの力」プロジェクトも全力で進めている。
アルタイがシベリアの力をこえる
「アルタイ経由の西ルートに関する協議は2010年に始まったが、主な消費者が中国東部におり、そこでの需要が高いことから、その後東ルートに重きが置かれるようになった」と、ロシア連邦エネルギー省広報課は伝えている。
ガスパイプライン「シベリアの力」は、イルクーツク州のコヴィクタ・ガス田、サハ共和国のチャヤンダ・ガス田とハバロフスク、ウラジオストク、アジア太平洋諸国をつなげるガスパイプラインで、ロシアと中国は5月、年間380億立法メートルのガスを30年間中国に供給する契約を結んだ。契約総額は4000億ドル(約40兆円)。投資額は550億ドル(約5兆5000億円)。パイプラインは9月1日に着工。輸出は2018~2020年に始まる予定。
ミレル社長によると、西ルートにはすでに使用可能なガスパイプラインなどのインフラがあることから、東ルートよりも早く輸送開始できるかもしれないという。
「西方回廊は統一ガス輸送システム、西シベリアの主なガス田とつながっている。つまり資源基地はすでにある」とエネルギー省。西シベリアのガス田はヨーロッパ向けの資源基地でもある。
同時に、既存のガス輸送インフラの刷新、地形の複雑な中国との国境までのガスパイプラインの建設も控えている。アルタイ・ガスパイプラインへの投資額は110~140億ドル(約1兆1000~1兆4000億円)と見積もられている。
一部専門家は、ロシアが西側の買い手向けの高額なガスパイプライン建設、液化天然ガスのプロジェクトを凍結する可能性があると考えている。複数の大型プロジェクトを同時に進めると資金が不足するため。何よりもガスパイプライン「サウス・ストリーム」の話である。ただエネルギー省はこう伝えている。「現在サウス・ストリームを取り止めることは検討されていない。ロシアはアジア太平洋諸国と経済貿易関係を構築しているが、ヨーロッパにとって信頼の高いガス供給者であることは変わっていない」
中国とのガス契約を加速させたのは
一方で、ロシアと中国のガス協力が強まっていることは、経済的というよりも政治的という意見もある。「ロシアが中国やアジアと積極的に提携しているのは、欧米の制裁と代替エネルギー販路の構築を背景としているようだ。そうでなければ、現時点で開発と建設に着手できるように、数年前に交渉が終わっていたはず」と、ロシアの外国為替取引会社「アリパリ」の主任アナリストであるアンナ・ボドロワ氏。
ロシアの民間エネルギー調査会社「ロスエナジー」のパートナー兼アナリスト、ミハイル・クルチヒン氏によると、中国への東ルートおよび西ルート経由のガス輸出プロジェクトは、経済的な観点からも、政治的な観点からも、得策ではない可能性があるという。西ルートのガスパイプラインを中国の経済的に発展している地域まで延長すると、長さは約8000キロメートルにもなる。西シベリアのガスは輸送コストの面で競争力があるため、長さが5000キロメートル以上になると、その長所が失われる。そのため中国にとってはかなりお得な値段になる。また、西ヨーロッパのガス市場への参入も進んでおり、ロシアの昨年の供給量は1380億立法メートルにのぼっている。2020年までの中国への東ルートおよび西ルート経由のガス輸出量は、その約半分の年間680億立法メートルほどにとどまると予測されている。
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