2011年3月2日、プーチン首相(当時)が、モスクワ郊外のノボ・オガリョボの官邸で、仏石油大手「トタル」のクリストフ・ドマルジュリ最高責任者(CEO)を歓迎する。その様子を、ロシア最大の独立系天然ガス生産・販売会社「ノバテク」のレオニード・ミヘリソンCEO(右)が見ている。ノバテクとトタルの協力に関する覚書調印の席で。=AFP/East News撮影
アンナ・ココレワ氏、FX会社「アルパリ」アナリスト
トタルはロシア企業と積極的に提携し、ロシアの石油・ガス分野への統合を今後数年で拡大する予定だった。政府系石油会社「ルコイル」との合弁企業を基盤に、バジェノフ層の開発に参加しようとしていた。これはトタルにとって初のシェールオイル採掘プロジェクトになるはずだった。
トタルは、ロイヤル・ダッチ・シェル、BP、エクソンモービルに次ぐ世界第4位の石油・ガス会社。ロシアでは20年以上活動している。昨年の1日の採掘量は20万7000石油換算バレル。
ロシアでは5件の大きなプロジェクトに参加している。
・ ハリヤガ鉱床開発(ネネツ自治管区)
・ シュトックマン鉱床開発(バレンツ海大陸棚)
・ テルモカルスト鉱床開発(ヤマロ・ネネツ自治管区)
・ フヴァルィン鉱床開発(カスピ海大陸棚)
・ 南タンベイ・ガス田開発および「ヤマルLNG」液化天然ガス生産プロジェクトより積極的に関与したのはガス関連プロジェクト。ロシア最大の独立系天然ガス生産・販売会社「ノバテク」の株式18%、その共同プロジェクト「ヤマルLNG」の株式20%を保有している。ロシアの国営ガス会社「ガスプロム」とのシュトックマン・ガス田開発にも関心を持ち、夏には新しい条件でのプロジェクト再開に関する協議を実施。3億5000万ドル(約350億円)の投資をシュトックマン・ガス田から引き上げたものの、プロジェクト自体をその後も注視していた。バレンツ海のロシアの大陸棚に位置するシュトックマン・ガス田の埋蔵量は、現時点で世界最大。欧米がロシアに対して経済制裁を発動し、圧力をかけていた中でも、ロシアに対して誠実な対応を続けてきた、西側の数少ない企業の一社だった。
ドマルジュリCEOの事故死は、ロシアとの提携の急速な縮小を意味するものではなく、すべては新しい幹部によって決まる。しかしながら、このような困難な時期にロシアの同志の一人を失ったことは、大きな痛手である。ドマルジュリCEOは対ロシア制裁を支持せず、原料のドル決済を変えることを提案していた、数少ない人物の一人であった。
この事故は金融市場やロシア全体に痕跡を残すだろう。ガスプロムとルコイルの株価はほとんど反応しなかったが、ノバテクの株価は3.1%下落。トタルの株価も43ユーロから42ユーロに下落した。
アレクサンドル・フロロフ氏、国家エネルギー研究所副所長(ラジオ局「コメルサントFM」インタビューより)
ここ2年、ロシア市場におけるトタルの立場は強化されていた。ヤマルLNGプロジェクトに参加し、ルコイルやガスプロムの石油子会社「ガスプロムネフチ」との共同プロジェクトも実施していた。
ドマルジュリCEOはロシアとの関係強化の支持者で、ガスや他のエネルギー資源供給におけるロシアとEUの相互利益を冷静に見つめていた人だった。7月だったと思うが、ロイターのインタビューに応じた時に、ロシア産ガスを拒否した場合のEUの将来について説明していた。拒否すればEUはより高い価格でガスを購入しなければならず、不利になるという話だった。ロシアへの影響については、投資だけでなく、技術の問題もある。トタルはいくつもの分野において、その技術で知られている。例えば改質歴青など。モスクワ石油精製工場で実現している、ガスプロムネフチとの共同プロジェクトがこれである。道路の強度を高める優れた材料。
ドマルジュリCEOの事故死が、これらの共同プロジェクトやロシアにおけるトタルの活動に大きな影響を与えるとは思わない。これらのプロジェクトの多くがすでに実施されており、中断する意味はない。トタルにとってプロジェクトは有益である。例えば、ルコイルとともに行っているバジェノフ層の調査がある。この契約にもとづいた主な作業は来年始まる。トタルがこれを今やめるとは思えない。
グリゴリー・ビルク氏、投資分析会社「インヴェストカフェ」アナリスト、燃料・エネルギー複合体専門家
トタルはロシアと提携している世界でもっとも大きな石油会社の一社。ロシア企業とのプロジェクトの難度と規模を考えると、今回の事故で根本的な変化が起こるとは考えにくい。ロシアはまず、トタルにとって戦略的に重要な場所。2011年にはLNG工場建設などのヤマルLNGプロジェクトにおける、ノバテクの戦略パートナーになった。このプロジェクトに影響はおよばないと思う。主な合意はすでになされており、昨年末までにノバテクへの出資比率は17%になっていた。最近も比率拡大に関する協議を行い、すでに比率が許容限度の19.9%に達している。ルコイルとの新たな合弁企業については、西シベリアのバジェノフ層の難採炭化水素の開発の一環として提携開始を計画していた。しかしながら制裁を理由に、この方向での共同作業を停止していた。
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