ロシアとウクライナの関係断絶の値段

ロイター通信

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ウクライナは、アメリカとEU(欧州連合)に続き、対ロシア制裁の準備を終えた。ロシアNOWは専門家らとともに試算し、両国の経済通商関係の断絶が、金額にして約520億ドルに上るとの結論を得た。

ロシアの毎年の損失は約200億ドル 

 ウクライナは近日中に、同国企業でロシア資本を50%以上有するものに対し、制裁を科す予定だ。ロシアのマスコミ報道によれば、この措置により、石油ガス関連の機器と軍事目的に転用できる製品をウクライナから輸入できなくなる。もっとも、専門家らが指摘するように、軍用製品の輸入は既に停止されており、石油ガス関連機器のほうも――大口径パイプラインが主な製品だが――輸入量は少なく、容易にロシア製で代替できる。

“痛さ”の比較

ロシアの公式のGDP(国内総生産)が2兆960億ドルであることを考えれば、これらの損失はさほど“痛くない”が、ウクライナの損失額は 、GDP(1755億ドル)の約5分の1にも達する。

 全体としては、ロシアとウクライナの経済関係が断絶した場合、毎年の両国の損失は300~320億ドルに達し、うちロシアの損失は約200億ドルとなる――。ロシア科学アカデミー・ヨーロッパ研究所付属CIS戦略発展センター長であるアレクサンドル・グーセフ氏はこう試算する。ただし同氏は、これは最悪のシナリオであり、両国の通商が完全に凍結された場合にのみ、このような損失を被ると釘を刺した。

 

うち150億ドル はガス 

 ロシアが被り得る損失で一番分かりやすいのはガスだ。「ウクライナの未納代金は53億ドルに上る」と、グーセフ氏は指摘した。ウクライナが毎年270~280億㎥買っていることから、ガスの輸出入が途絶した場合、ロシアの損失は年間約100億ドルになる(1千㎥当たり385ドルで計算)。

 しかし、企業グループ「アロル」のエコノミスト、セルゲイ・ヘスタノフ氏の確信するところでは、ウクライナは、ガス消費量の3分の1までは自国産でまかなえるという。ちなみに、同国では毎年238億㎥が工業生産用に消費されており、家庭用は176億㎥、暖房用に83億㎥という内訳だ。

 「金属工業はウクライナの主要産業で、しかも最もエネルギーを食うが、世界の経済危機のあおりで事実上生産がストップしている。製鉄所も同様で、ガス消費は著しく減っているから、自国産だけで間に合うかもしれない」。ヘスタノフ氏はこのように予想する。また、冬季に室温を3~4度下げれば、さらにガスを節約することが可能だ。ヘスタノフ氏の指摘するように、室温一度につきガス消費を6%節約できる。

 

契約凍結で650億ドルの損失 

 既に締結され、代金が支払われている契約が履行されないと、ロシアはいくつかの方面で損失を受ける。 

 まず軍需産業の部門では、納入契約不履行でロシアが被る損失は――ここで問題になっているのは軍事機器用の部品やヘリコプターのエンジン、ロシアの衛星測位システム「GLONASS」の部品などだが――、2018年までに合計で、グーセフ氏の試算によると、約35~40億ドルに上る。

 このほかロシアは、ウクライナから輸入されていた食品で、約10億ドルを失う(乳製品による損失の約2億5千万ドルを含む)。 一方ウクライナは、農産物と砂糖を輸入している。

 これらにさらに、車両製造と工作機械の分野での10~15億ドルが加わる。もっとも専門家らは、ロシアで最近2年間、鉄道輸送の需要が落ち込んでいることに目を向ける(昨年は、22%の大幅減となった)。これは、いずれにせよ、ウクライナ製車両への需要も下がるということだ。

 しかし、ロシアの主たる損失は、ウクライナの「モトルシチ」工場のユニークな製品によるものだとヘスタノフ氏は説明する。これは世界中で売れ筋のロシア製ヘリコプター、Mi-8とMi-24用のエンジンだ。別のエンジンを適合させるには2~3年はかかり、しかも価格は、新たなヘリコプターの開発費の20%近くにまで跳ね上がるという。

 

ウクライナの損失300億ドルの内訳 

 ウクライナの損失は、その多くが、通商、貿易ではなく、社会的要因と関係している。毎年約350万人が同国からロシアに出稼ぎに来ているからだ。 

 「ロシア郵便」と金融機関のデータによると、これらのウクライナ人は、家族に約120~140億ドルを仕送りしているほか、約30~50億ドルの現金を持ち帰っているが、今やこの金の流れは途絶えることになるだろう。

 「ロシア出入国管理局の、ウクライナからの不法入国に対する監視も強化され、出稼ぎの数は事実上ゼロになるだろう」とヘスタノフ氏は言う。「もっとも、その一部はEUで埋め合わされるかもしれない。ウクライナ人がEUの労働市場に入りやすいようにしているし、就労者数の枠も拡大しているから」

 だがその一方で、ウクライナ政府は、EUに接近しその自由経済圏に入ることで、逆に損失を受けることを、グーセフ氏は思い起こさせる。「ロシアとの貿易は無関税だが、欧州への輸出は平均7,8%の関税がかかる。推算では、これによる損失は約100億ドルだ」

 しかも、ウクライナが欧州に輸出できるものといっては、まず農産物ということになるが、「これは極めて低い評価しかされていない」とヘスタノフ氏は強調する。

 さらに、これらに加えてウクライナは、ロシアから観光客が来ないことによる損失の約170億ドルも計上しなくてはならない。ロシア科学アカデミーのデータによれば、ウクライナを毎年訪れるロシア人は350万~380万人。「新たな規則により、18歳から60歳のロシア人男性は入国を拒否されがちだ」。こうグーセフ氏は述べた。