インフラに国民福祉基金5兆円

アレクセイ・ウリュカエフ経済開発貿易相の正式な発表によると、新しいガスパイプライン「シベリアの力」の建設プロジェクトにも配分される可能性がある。=ロイター通信

アレクセイ・ウリュカエフ経済開発貿易相の正式な発表によると、新しいガスパイプライン「シベリアの力」の建設プロジェクトにも配分される可能性がある。=ロイター通信

ロシア政府は国民福祉基金の60%の資金を、複数のインフラ・プロジェクトに投じようとしている。現在の基金の資産総額は2兆9000億ルーブル(約8兆7000億円)。つまり1兆7000億ルーブル(約5兆1000億円)が投じられるかもしれないということである。この資金は中国向けのガスパイプラインの建設にもあてられる。

基金の決まりごと

 インフラ・プロジェクト用支出規定は、ロシア政府決定に含まれている。これによると、国民福祉基金はプロジェクトの唯一の資金源となることはできず、借入金やその他の資金源も同等に活用されなければならない。政府が承認した融資手順では、インフラ・プロジェクト1件あたりの国民福祉基金の資金の割合は、全体の40%を超えてはいけないことになっている。

 ロシアの投資会社「UFS」のマクロ経済アナリストであるワシリー・ウハルスキー氏はこう話す。「基金の資金を経済刺激のためにインフラに向けるというアイデアは妥当に見えるし、多くの国で実践されている。ただ世界金融危機の条件の下では、追加的分析としっかりとした論拠がなければいけない」。世界市場が非常に不安定な時期は、多くの国が準備金を積み立て、極めて慎重に使うという。

 国民福祉基金の資金がインフラに回るということは、ロシアの金融政策が変わることを意味する。ロシア政府はここ数年、インフラが経済での貨幣の量に依存するという、貨幣理論を維持していた。理論のもっとも重要な目的とは、インフレを宣言したレベルに抑えること。これを目的として2004年、安定化基金が創設され、その後これが2008年に「準備基金」(2014年6月初め、8兆6400億円)と「国民福祉基金」(2014年6月初め、8兆7000億円)の2基金にわけられた。GDPと石油価格を計算に含むという複雑な図式にもとづいた、石油販売から得られる余剰収入で、基金はまかなわれている。

 安定化基金創設の中心的なイデオローグは、通貨主義支持者で、元財務大臣であるアレクセイ・クドリン氏。ウラジーミル・プーチン大統領の側近と考えられている人物だ。もともと石油の収入をインフラに向けるという案を積極的に推し進めていたのは、クドリン氏と対立していたゲルマン・グレフ経済開発貿易大臣(当時)。結果的にグレフ氏は辞任し、ロシア最大の銀行「ズベルバンク」の総裁に任命された。消息筋によると、グレフ総裁は近いうちこの職務から降り、政府の仕事に戻る可能性がある。

ロシアの投資分析会社「インヴェストカフェ」のアナリストであるティムール・ニグマトゥッリン氏はこう話す。「通貨による経済刺激は、ロシアでは非資源経済の国ほど効果的ではない。GDPの大部分と連邦予算の50%ほどが石油ガスの収入によるもの。資源の価格と需要は対外要因に大きく依存しているし、通貨対策では刺激できないだろう」

 

具体的なプロジェクトとは

 すでにいくつかのプロジェクトに、国民福祉基金の資金が割り当てられることが決まっている。例えば3000億ルーブル(約9000億円)が、ロシア西部から極東までのシベリア鉄道およびバイカル・アムール鉄道の改修工事と、新しいモスクワの環状道路の建設に配分される。

 アレクセイ・ウリュカエフ経済開発貿易相の正式な発表によると、新しいガスパイプライン「シベリアの力」の建設プロジェクトにも配分される可能性がある。最初のパイプラインの建設費用は250億ドル(約2兆5000億円)。ウハルスキー氏はこう話す。「中国向けのガスパイプライン『シベリアの力』の建設は、非常に大規模で高額なプロジェクト。だが実現しても見返りははるかに少ない」。

 準備金を国内インフラの建設にあてるという提案は前からなされていたものの、ロシア政府は今のところ、積み立て政策を維持しているという。

 財務省が2010年から、国民福祉基金や準備基金の資金を、どれだけ、どのようなものに投じているかを伝えていないことは、興味深い。財務省のウェブサイトには現在、各基金の資産の情報が掲載されているだけで、残りの情報は断片的である。政府決定によると、資金は供託金や他の国の債務などに投じることも可能だという。

 ロシアのマスメディアは昨年末、ロシアが国民福祉基金から150億ドル(約1兆5000億円)をウクライナの国債に向ける計画であることを報道。最初の30億ドル(約3000億円)分を購入したことは明らかになっている。だがその後のことはわからない。