クリミアにオフショアを創設

ミハイル・ヴォスクレセーンスキイ撮影/ロシア通信

ミハイル・ヴォスクレセーンスキイ撮影/ロシア通信

クリミア自治共和国で、付加価値税(VATに相当)の税率が、租税回避地として知られるジャージー島(イギリス王室属領)の水準まで引き下げられた。これによりクリミアでは、外国投資家および、海外から資金を引き上げたロシア投資家の呼び込みを図る予定だ。

空前の“徳政令” 

 今年5月初めから、クリミア自治共和国国家評議会は付加価値税を引き下げた。その結果、通常の商品に対しては4%、食料品、子供用品、医薬品など「社会性」をもつ商品に対しては2%となった。ちなみに、ロシアの付加価値税の基本税率は18%だ。そのほか、同共和国政府は、すべての納税者に対し、未納分を免除した。

 2~4%までの引き下げは、ロシアでは空前の措置であり、この水準の税率は租税回避地にしか見られない。例えば、租税回避地として有名でイギリス海峡に浮かぶジャージー代官管轄区(連合王国には含まれないイギリス王室属領)では、付加価値税は、同水準の3%だ。

 

来年以降の据え置きも 

 「インヴェストカフェ」社のアナリスト、ミハイル・クジミン氏によると、この措置は、クリミアへさらに投資を呼び込むのに不可欠で、それなりに理に適っていると言う。「ロシア政府と地元行政は、クリミアにビジネスを誘致するため、できるだけ条件を緩めようとするだろう。クリミアは、復興と新たな発展に向けての投資が要る」

 今回の減税は、2015年初めまでだが、さらに延長されることもあり得るという。「フィン・エクスペルチザ(FinExpertiza)」社の法務コンサルティング部長ヴィクトル・デミドフ氏によると、「仮にこの措置が良い結果をもたらし、投資が活発化すれば、この移行期が過ぎた後も、付加価値税の税率は据え置かれるだろう」とのこと。

 

ウクライナ情勢が落ち着けば… 

 面白いのは、付加価値税は連邦税で、地元行政の管轄外なのに、クリミアについては例外とされたことだ。それというのも、ロシア連邦法がクリミアで施行されるのは、来年初めからであるため。

 「この減税措置は、なによりもクリミアで活動する企業にとって有利だが、ウクライナ情勢が落ち着けば、外国とロシアの投資家の関心も引くだろう」。こう予想するのは、「UFS IC」社の投資専門家ワシリー・ウハルスキー氏だ。同氏によると、この措置自体が、そうした方向に向けての一歩だと言う。

 諸外国も、特定の地区に租税回避地を創ることを盛んにやっている。例えば、アメリカのオレゴン州では消費税がゼロなので、買物天国だ。ネットでの買物や人気のブランド商品もふくめ、ショッピングにとても魅力的な地域となっている。

 ロシアの行政は、クリミアで似たような方向を目指す計画で、経済発展省は、当地における経済特区創設の計画を策定した。クリミアに、3年間の合計で約4億2千万円以上投資した企業は、10%の企業利潤税(法人税)以外のあらゆる税金を免除される。現在、この計画は、ロシア政府内で検討されている。

 

新たな天国を求めて 

 クリミアにおけるタックスヘイヴン創設は、ロシア企業が新たな登録地を求めていることを背景に決定された。

 こうした状況を後押しすることになった第一の要因は、キプロスの金融危機だ。ロシア中央銀行のデータによると、2011年の時点では、キプロスは、ロシアからの資金の逃避地の筆頭だった。ムーディーズの評価によると、ロシア企業の預金総額は190億ドル(約1兆9000億円)で、ロシアの銀行が保有していた資産の合計は530億ドル(約5兆3000億円)に達していた。

 ところが、これらのうち100~120億ドル(約1兆~1兆2000万円)が金融危機で失われ、補償されることもなく、またほぼ同額が焦げ付いて回収不能となった。ロシア企業はここで初めて、「安全地帯」に隠していた資産を失う危険に遭遇したわけだ。

 第二の要因は、ロシア政府が、経済の脱オフショア化とロシア企業の国内回帰に向けて、大規模な計画を発表したことだ。2013年12月、プーチン大統領はクレムリン(大統領府)で、政府幹部や上下院の議員らを前に年次教書演説を行い、経済の脱オフショア化の必要性を訴えた。

 これを受けて、露財務省は、管理下に置くことが可能な外国系企業に関する法案を作成した。これによると、ロシア人で、外国系企業の株を1%でも保有する者はすべて、これを国に届け出なければならない。さらに、オフショアに登録される企業の株を10%以上保有する者は、税務当局に届け出て、利潤に対する税金を支払わねばならない。

 

大口納税者獲得競争 

 こうしたビジネスの脱オフショアの状況下で、ロシアの各地域は、大口納税者を誘致しようと躍起だ。

インフォグラフィック:


クリミアの軍需産業

 モスクワ市政府は、石油企業に対する企業利潤税(法人税)20%のうち、地方税に割り当てられる18%分を13.5%まで引き下げると発表した(ロシアでは、企業利潤税の一般税率は20%で、うち2%が連邦政府予算に、18%が地方政府予算に割り当てられる。地方政府が軽減できる税率は、13.5%が下限である)。

 だが、13.5%の課税は、利潤全体に対してではなく、利潤の増加分に対してのみである(つまり、前年度と今年度の利潤の差額に対してのみ)。残りの額に対しては従来通り18%が課税されるので、市場関係者は、モスクワ市の提案をさほど「気前がよい」とは思っていない。

 ロシア企業にとっては、サンクトペテルブルクがもう一つの登録地の選択肢だが(同市には、例えば、ガスプロムの子会社「ガスプロム・ネフチ」が登録されている)、仮にクリミアで減税が引き続き実施されるとすれば、大企業獲得競争で両首都に勝てるかもしれない。