布谷彰氏=写真提供:Press Photo
―IOCのグローバルスポンサーとしての仕事は何から始まりましたか?
映像機器の提供からです。それから少し遅れて、音響機器も提供するようになりました。五輪の回数を重ねるごとに、機器の種類も増えていきました。ソチ五輪では、我々は同時に二つの義務を負っています。グローバルスポンサーとして映像機器と音響機器を納品するほか、白物家電部門で公式サプライヤーにもなっています。こうしたケースは、長野五輪に続いて二度目です。ロシアはわが社にとって特別に重要な地域なのです。
―ソチに納品する品目のなかに監視カメラがありますが、それについて教えてください。
オリンピック施設の約4000台の監視カメラのほか、ソチのインフラにも3000台以上を設置済みです。目的はいずれも同じで、安全確保です。ちなみに、カザン市のユニバーシアードでも似たようなカメラが使われました。
―パナソニックはどんな新技術、新製品をソチに提供するのですか?
我々の広告塔となるのは、メディアキューブです。これは、“継ぎ目”のない、4面の巨大なLEDスクリーンで、解像度はフルHDを上回ります。現時点では、これが最も強力なスクリーンで、これまでの五輪にはこれに類するものはありませんでした。
このキューブは、ホッケーが行われるボリショイ・アイス・ドームに設置されます。重量は26トンを超え、必要に応じて、高くなったり低くなったり、高さを調整できます。1面が6・9メートル×6・6メートルの大きさで、1ピクセル(画素)は6ミリです。通例そうであるように、キューブの上の部分で競技の映像を見せ、下の部分で得点を、側面でロゴと対戦チームの国旗、五輪のマーク、シンボル、情報などを示します。キューブの設置と調整に3ヶ月近くかかりました。
―他に新製品は?
まったくの新製品というわけではありませんが、昨年夏ロンドン五輪で絶賛されたものがあります。これは、光束2000ルーメンの強力なプロジェクターで、開会式と閉会式に使われました。ご記憶かと思いますが、メイン・スタジアムに設置された中央キューブに画像を映し出すのです。画像は、スタジアムの周囲に置かれたプロジェクターから伝送された画像を“縫い合わせた”ものですが、ひとつのリアルな画像が合成されました。ソチのセレモニーでも、これに劣らぬ見物を提供し、観客に喜んでもらえればと思います。
―ロンドンでは史上初めてすべて3Dで撮影されました。パナソニックはこのプロジェクトに直接関わっていましたね。
そうです。これは、オリンピック放送機構(Olympic Broadcasting Services)との共同プロジェクトでした。今回は、4Кの新技術に注目が集まっています。これは、映画で初めて使われましたが、スポーツの分野にも積極的に導入されています。
人間が肉眼で捉える映像は、約125メガピクセルです。理論的には、映像機器の解像度はいずれこの水準に近づくでしょう。そうなれば、テレビの画像と窓の外の景色は、解像度の点では差がなくなります。
―オリンピックは新製品を紹介する機会になるということですか?
五輪が開催されるごとに、そこで使われた技術、製品は、スタンダードになるチャンスがあります。我々がデジタルビデオカメラを導入したときもそうでした。トリノ五輪(2006)でテープのアナログの代わりにデジタルを提案したときは、誰もそれが可能だとは信じませんでしたが、今や、誰のポケットにもデジカメが入っています。その後は、我々がバンクーバー(2010)で披露した3Dですね。
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―次にどんな新技術が出てくるのか、想像もつかないですね。
例えば、超広角カメラです。これを使えば、スタジアム全体が捉えられます。観客は、自分がスタジアムにいるような完全な臨場感を味わえるでしょう。ロシアのFC「ロコモチフ」の試合の一つでテスト済みです。ソチでも使ってもらえると大いに期待しています。
あるいは、高画質・高音質のビデオ会議システムですね。似たようなものは、バンクーバー、ロンドンでも使われましたし、ローザンヌのIOC本部にもあります。ただソチがユニークなのは、その規模です。オリンピック施設に全部で89のビデオ会議システムを納入します。
ですから、ソチ五輪が革新的なものとなることを確信しています。そのイノベーションには、当社の製品も貢献していると自負しています。
―ロシアの組織委員会との仕事で、ロシアの独特のお国振りなど、何か問題はありましたか?
私は、バンクーバー、北京、ロンドンの組織委員会と仕事をしましたが、「ソチ2014」は、協力に対して最もオープンだと思います。五輪の組織に携わる人の多くは、それが最初で最後なので、どの五輪でも何らかの問題が生じるのは止むを得ません。しかし、私の経験ではどれも解決可能です。
―日本人とロシア人は、メンタリティーに極めて近い面があるとの意見がありますが、本当ですか?
どの国民にも色んな特徴があるのは当然で、日本は別の惑星だと思う人もいます。でも、日本人とロシア人の思考パターンはよく似たところがあります。いずれも、「はい」と「いいえ」しかない白黒の世界には生きられないということです。フリーハンドの範囲が広く、柔軟です。ですから、何度でも会って顔を合わせ、共通の解決を見出すことができるんですね。
―ソチの街自体は気に入っていますか?
過去の五輪はいずれも大都市で行われました。ソチは、そんなに大きくないですが、五輪のおかげで、スポーツと娯楽の中心地になるでしょう。私自身、頻繁にソチを訪れていますが、残念ながら、観光スポットを見る余裕はありません。それに街全体が建設に没頭していますし。
―五輪開催中はソチに来られますか?
行かないわけにはいきません。開幕から、当社のあらゆる機器の管理をしなければなりません。私と同僚は、もちろん、開会式にも閉会式にも立ち会います。しかし、セレモニーを楽しむ余裕があるかどうか・・・。緊張することは間違いありませんが。開催の2週間前に、当社のサービス・エンジニア30人がソチ入りし、五輪とパラリンピックの全期間当地に留まり、機器の正常な作動をバックアップし、これらの機器を使う情報・報道関係者を援助します。ここまでやる会社は、世界広しといえども他にはありませんよ。
―ロシアのホッケー人気は凄まじいですが、あなたはホッケー・ファンとして、どの国が優勝すると思いますか?
ぜひとも決勝戦を見たいと思っています。ロシアが進出した場合はなおさらです。パナソニックがスポンサーである「ロコモチフ」の選手が、ナショナルチームに入り、決勝戦でもプレーしてほしいですね。
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