「ロシアでの水産事業は日本企業にとってチャンス」と語る武蔵野和三社長
岩手県に本社を置く水産加工業「武蔵野フーズ」。陸前高田市にあった本社工場を東日本大震災で失いながらも、北海道に拠点を移して事業再建に取り組んでいる企業だ。従業員は約50人。この企業が今春から、ロシア極東でのビジネスに乗り出した。
ロシアで手がけるのは、サケ、カレイといった水産品の加工だ。今年に入ってウラジオストクとカムチャツカでそれぞれの地元企業と提携し、武蔵野フーズの指導に基づく生産ラインを試験設置した。春から、切り身などをつくり始めた。年内にも、モスクワなど大市場に向けた本格出荷を始めたい考えだ。
ロシアでは一般的には日本のように生魚を食べる習慣はなく、鮮魚加工の技術は日露で大きな差がある。しかし日本食ブームが続く中、刺し身や鮮魚料理を好むロシア人は急増中だ。
武蔵野和三社長は「ロシアの鮮魚マーケットは今後もっと大きくなり、味の良さも求められるようになる。一歩進んだ技術を持った日本企業が入っていくチャンスはたくさんある」と意気込む。
同社は以前にもタイに工場を構えて冷凍品を世界に輸出するなど国際ビジネスを展開していたが、ロシアとの直接の取引はなかった。
武蔵野社長が初めてロシアを訪れたのは2012年夏、北海道銀行が開催したウラジオストクでのビジネス視察ツアーだった。ロシアの水産関係者に会うだけでなく、街に出て漁港の様子や、市場での魚介類の価格、街の飲食店で出てくる魚料理などをじっくり観察し、好感触を得た。
ロシアは漁業資源に恵まれた国という認識は持っていた。「やはり原産地だから魚介類の元値は日本よりずっと安い。だが、店頭やレストランでの価格は日本より高い。利幅が大きく、ビジネスとしてさまざまな可能性を考えられる」(武蔵野社長)
足元の日本市場は厳しい状況にある。人口減少と高齢化で食品市場全体が縮小しているのに加え、調理の手間などから「魚離れ」が進行。06年には消費量が肉よりも少なくなってしまった。外国展開について考えを巡らせる中での、ロシアとの出会いだった。
以来訪露を重ね、現地調査とパートナー探しを続けた。渡航回数は1年で10回を数える。実際に見て感じるロシアの水産加工業の問題点は冷凍・解凍技術が未発達であること。冷凍も解凍も、温度や時間などの違いで魚のうまみは失われてしまう。
日本製の専用装置を使いたいところだが、設備投資は提携先工場と条件を詰めなければならない。思い描く形での事業がスタートするのはもう少し先になりそうだ。
ロシア事業のきっかけをつくった北海道銀行とは、震災後に工場を札幌に移して初めて接点ができた。今、岩手では復興支援の公的資金を得て、工場を建設中だ。
「もし震災が起こらなかったら北海道に来ることもなく、ロシアと仕事をすることもなかった。2年前は大変だったが、事業としては、結果的にうまく回り出しているんじゃないかな」。武蔵野社長が話す事務室には、地震と津波でがれきだらけになった旧工場の写真が掲げられている。あの時のことを忘れないためだ。
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