ソチのプリンセスになったソトニコワ

17歳のアデリナ・ソトニコワはソチ五輪の主役の一人、そしてロシアの冬季五輪史で記録をつくった選手だ=Getty Images/Fotobank撮影

17歳のアデリナ・ソトニコワはソチ五輪の主役の一人、そしてロシアの冬季五輪史で記録をつくった選手だ=Getty Images/Fotobank撮影

17歳のアデリナ・ソトニコワはソチ五輪の主役の一人、そしてロシアの冬季五輪史で記録をつくった選手だ。女子シングルとしては初の五輪金メダルをロシアにもたらし、国民を喜ばせた。だがこの金メダルに異議を唱えている国もある。

メダル候補ではなかった

 アデリナ・ソトニコワはソチ五輪女子シングルのメダル候補ではなかった。2010年バンクーバー冬季五輪で優勝した韓国の金妍児(キム・ヨナ)が金メダルを獲得すると思われていたし、世界選手権での優勝経験があるイタリアのカロリーナ・コストナーの最後の五輪挑戦もメダルで終わると思われていた。2人は金メダルを目指してソチ入り。さらに、ソトニコワの競争相手であるもう一人のロシア代表、15歳のユリヤ・リプニツカヤは、ソチ五輪の幕開けとなった団体戦で金メダルを獲得していた。

 ソトニコワが個人戦で優勝するとは、誰も考えていなかった。ジャンプに失敗したリプニツカヤは5位に終わった。

 ソトニコワと金妍児の点数は近かったが、ソトニコワはより複雑なプログラム、より困難で質の高いジャンプと回転を成功させて、1位に浮上。これが専門家やマスメディアの詳細な分析の対象となり、ニューヨークタイムズ紙は勝利について細かく調べた。

 

妹のために全力で滑る

 ソトニコワの妹マリヤは重度の病気を抱えて生まれたため、家族にとって金銭問題は日常的なものだった。ソトニコワは多くのインタビューで、フィギュアスケートは趣味などではなく、仕事だと語っている。自分のがんばり次第で妹の治療が左右されるため、仕事をきっちりこなさなければならない。妹はここ数年、ドイツで非常に高額な手術を3回受けている。医師は最初から家族に対し、今後何度手術が必要かわからないと警告した。

 ソトニコワはフィギュアスケートを好きになり、この種目なしの自分はあり得ないことをさとった。ソチではなぜこれほど夢中になって滑るのか、どのような目標に向かって努力しているのかと聞かれ、こう答えた。「私の家族。私がやっていることすべては愛する家族のため。ママ、パパ、妹が私のことを誇りに思い、幸せであってほしい。ロシア選手権で初めて優勝した12歳の時から、ずっと五輪の金メダルを夢見てきたし、家族の存在は大きかった」

 

大人の舞い

 カミーユ・サンサーンスの「序奏とロンド・カプリチオーソ」に合わせたフリーには、”成長の余地”があった。最初はこの音楽でどう自分を演出すべきか、どのように困難なスケートの要素を組み込むべきか、よくわからなかった。わかったのは途中の段階だ。この音楽によって成長し、ソトニコワの内に秘めたものがどんどん露出していった。

 五輪のフリーの日に練習で氷上にあがった時、シンプルな黒いトリコットの衣装をまとい、ジャンプすることなく基本形を滑っていた。プログラムの振付師であるピョートル・チェルヌィショフはこう話す。「私たちコーチは通常、スケートを見ながらごく小さな不足でも探そうとするが、私はアデリナの滑りに見とれていたことに気づいた。あんなに自由で意気盛んな彼女を見たことがなかったから。この時に恐れを感じた。数時間後にとんでもないことが起こるぞってね」

 演技前のウォーミングアップの時、チェルヌィショフはソトニコワにこう言った。「前半はいかなる感情も持っちゃだめだ。何も考えるな。感情は後でやってくるから」

 「一生の滑り」とはファンの国籍にかかわらず、会場全体を魅了する演技のことだ。ソトニコワは人生でこれほどの演技を見せたことがなかったと、チェルヌィショフは話す。大げさにほめているわけではない。

 ソチ五輪でのソトニコワの勝利が、フィギュアスケート界にとって完全に想定外だったと言ったら、ちょっとわざとらしい。外国人はフリーの前にソトニコワの情報を集めていたのだから。一番重要な問題は、ソトニコワが会場の熱狂に耐えられるか、感情を克服してうまく滑りきることができるかということだった。そして見事成功した。

 

金メダルに対する批判

 審判が高い点数をだしたとの批判については説明可能だ。女子シングルではかなり前から、3人のメダリストが完全な理想形でフリーを滑りきったことはない。”一生の滑り”をしたのに、他の人がチャンピオンになってしまったことを理解するのは、選手本人にとっても、ファンにとってもいつでもたいへんなことである。金妍児とコストナーには、金メダルへの到達を不可能にした、小さな隠れた欠点があり、それを見抜けたのは専門家だけだ。そしてその評価の詳細は公表されている。金メダリストよりも簡単なジャンプ、難易度の低い回転とステップ…。

 そして金妍児とコストナーはスケーティングのスピードを失いながら、慎重にならざるを得なくなった場面があった。このような状況において、審査員の気持ちはいつでも、自信に満ちた選手に少しだけ傾くのである。

 

イズベスチヤスポルト・エクスプレスの記事を参照。

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