=ロシア通信撮影
ラプタ遺伝子
硬球が時速140キロメートルで向かってくる感覚は、言葉では表現しがたい。本能的に目を瞑り、最初の何回かは球を避けようとする。しかし、プロとなればそうはいかず、何分の一秒かでボールを打つかどうか判断しなくてはならない。モスクワの野球学校「スパルタク」のコーチ、パーヴェル・グラージコフさんは、こう語る。
「子供にはボールに対する恐怖心があり、それを克服するまでにときには何年もかかります。8割の子は、ボールがぶつかるまでまごまごしています。反応が鈍く、親も教師もなぜかその辺のことを教えません」
パーヴェルさんは、野球は伝染するものとみなし、そこにロシアの伝統的な球技であるラプタの影響を見てとっている。「バットを振り、いち早く駆け去り、ボールで誰かをタッチしたいという願望は、私たちの遺伝子に組み込まれているのです。私たちが関わっているロシアの普通教育学校では、ラプタの大会が催されており、私たちは、そこで才能ある子どもたちを見つけています」
ロシア最高の野球名門校
「スパルタク」の可能性は、たいしたものではないが、多くの野球コーチを羨ましがらせる。この野球部は、普通の学校で活動しているため、コーチらは、いつでもメンバーを補うことができ、自前のスタジアムもあるので、場所を探す必要もない。何年も前に、普通のサッカー場にミニ野球場がお目見えし、現在、それは改修中だが、パーヴェルさんは、ロシアのトップリーグの野球の試合よりも子供たちの試合のほうが多くの観客が集まる、と話す。
パーヴェルさんは、野球場では誰もが自分を発揮できると言う。「どのポジションにつけたらいいか分からない生徒がいました。どの位置でも何かが欠けているんです。それが、二年後にはめきめき力をつけて、さらに一年後には大投手となりました。一試合に140球も投げることができ、交代させようとする首を横に振るのでした。プロでも100球がいいところなのに…」
「スパルタク」では、子供たちは、ほんの幼い頃から週4日練習をしている。年長の子供には、公共のスポーツ施設に通う義務がある。「スパルタク」の子供たちは、たいてい同名のトップリーグのチームの選手となるが、今シーズンは開幕一週間前に財政危機に見舞われた。
ロシアで女子チームが長続きしないワケ
パーヴェルさんは、野球発祥の地アメリカを訪問した回数をちゃんと憶えている。これまでに56回訪れ、57回目も予定している。一回行くと、少なくともバッグに二つ、野球用具をロシアへ運んでくる。「ロシアの店で売られているのは、危険なことさえある安物なのです。シャツも高いだけで質が良くないですし…。木製のバットは折れたりして危ないので子供たちには使わせません。金属のも凹んだりして長持ちしません。結局、お金を浪費するだけなのです」
初等グループの子供が用具をそろえるには250~300ドルかかり、12歳くらいになるとその額は1,5ないし2倍になる。「スパルタク」では、とりあえずグローブとユニフォームを買うことを勧めている。ヘルメット、バット、キャッチャー用具は、学校で用意してくれるので。
一般に野球は男性のスポーツとみなされているが、「スパルタク」にはソフトボール部があり、女性がバットを握ることもできる。とはいえ、難しさもあり、パーヴェルさんは、溜息をつく。
「14~15歳を過ぎると女の子にスポーツを続けさせるのはたいへんです。もう練習をしたがらないので。三度チームを作りましたが、いずれも解散してしまいました。別嬪ぞろいでしたから…」
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