『ケヴォングの嫁取り サハリン・ニヴフの物語』

 刊行:2015年11月

 ウラジーミル・サンギ 著

 田原佑子 訳

 群像社

 

 極東やサハリンに生きる先住民族ニヴフ出身のロシア語作家ウラジーミル・サンギ(1935年生)が、1970年代に発表した長編の本邦初訳。多民族国家を標榜していたソ連では、自民族の伝承や過去を題材とするマイノリティの文学も広く読まれた。そうしたなかで本書は、神話的な原初との対照によって現実を鋭く批判したキルギス人作家アイトマートフの『白い汽船』や、チュクチ人作家ルイトヘウの『クジラの消えた日』等とは一線を画し、19世紀末から20世紀初頭の極東という具体的で歴史的な時空間のなかに、ロシアの商業網の拡張と貨幣経済の浸透や、その結果としての先住民族の生活形態や価値観の変質を捉えている。押し寄せる近代化の波の下での伝統社会の変容と崩壊を多面的に描いた力作。

(中村唯史・京都大学教授)