皇帝が治める土地にある魔法の木になっていた黄金のリンゴを泥棒が盗んだとき、激高した皇帝は息子たちに犯人を捕らえるように命じた。これが裏切りや殺人などさまざまな出来事が続々と起こる、彼らの危険な旅の始まりであった。そしてこの民話の主人公がイワン王子である。
『イワン王子』、イヴァン・ビリビン、1910年
Fine Art Images/Heritage Images/Getty Imagesイワン王子はいくつかのロシアの民話で主人公として登場する。彼は、王の三男で、末息子として描かれる。彼はまだ若いので、皇帝や兄たちも彼のことをまじめに取りあわない。
彼はツァレーヴィッチ―皇帝の息子としての血統をあらわす名称―と言われているとはいえ、皇位継承順位が3番目であるため皇帝となることはできない。このため、王子は、賢く、慎ましやかで、勇敢な、何の報酬も期待せずに父親が認める働きをする男として描かれることが多い。
もっともよく知られた寓話「王子イワンと灰色の狼」の中で、イワン王子は父親である王に黄金のリンゴ―これが火の鳥に変身する―を盗んだ泥棒を捕らえることの許しを請うが、王は初めのうちは気が進まない。しかし、兄たちが泥棒捜索の途中で居眠りをして失敗したので、王もついにイワンの願いを聞き入れた。
父は泥棒を捕らえた息子に王国の半分を与え、王位の継承者とするという約束をしたので、今度ばかりはイワンも俄然張り切った。イワンはこれが正当な手段で王位を得る唯一のチャンスであると心得ていた。しかし、この寓話の中でイワンは決して強欲な権力志向の人間には描かれていない。この英雄にとってより大切なことは、兄たちと平等な扱いで父親に認めてもらうことだけであった。
『イワン王子と蛙姫』、イヴァン・ビリビン、1901年
ミール出版社旅の途中、イワン王子は魔法の狼、ライオン、鳥、魔法の馬などさまざまな神話上の生き物の助けを得ることになる。イワン王子は最初のうちはこれらの動物に驚かされるものの、やがて仲良くなって、彼らなしでは乗り越えられなかっただろう試練に打ち勝っていくのである。
イワン王子と灰色の狼の物語にて:
そして、この物語の舞台は次の言葉が刻まれた巨大な岩であった。
「右に行けば馬を失うだろう!左に行けば命を失うだろう!真っ直ぐに行けば馬も命も失うだろう!」
イワン王子は長い間考え、ついに決心する。
「馬を失うかもしれないが、少なくとも火の鳥を見つけることが出来るだろうし、父の言いつけを守ることができる」と彼は言った。
そして、右に行く道を選ぶのである。
最終的に、この狼はイワンが旅の途中で出会う試練を乗り越えるのを助けるのをだけでなく、嫉妬した兄たちに殺されたあと蘇らせてくれた。
『王子イワンと灰色の狼』、ヴィクトル・ヴァスネツォフ作、1889年
モスクワのヴィクトル・ヴァスネツォフ家庭博物館さまざまな民話の中で、イワンは兄たちと違い、欲望によって動いたのではなく、尊い願いからであった。それは父に認めてもらいたい、 不死身の「コシチェイ」と呼ばれる化け物にさらわれた王女を救いたいという願望だった。
彼の考えはとても純粋だったので、旅の途中で多くの助けを得ることが出来た。このおかげで、彼は目的を達成することができ、父である王の後継者となり、美しい王女をめとることができた。
おそらく、イワン王子を題材にした民話から得ることができる教訓は、高貴な心を持つものは初めは思い通りに行かないかも入れないが、やがて幸福や名誉を得ることができるということであろう。
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