写真提供:kinopoisk.ru
現在、ロシアの書店でよく見かける古典文学のシリーズ物は、出版の“御三家”であるAST、エクスモ、アズブカの3社によるものだ。なかでも業界をリードするアズブカは、ロシアで初めて古典作品のソフトカバーを出し、本の価格を下げた。
このように、出版のコンセプトに多少の差があるのは事実だが、デザイン上の原則はいずれも同じであり、古典は古典的に装丁されるべきだと考えられている。表紙は、しばしば作者のポートレートだったり、作品執筆当時の絵画だったりして、本の内容またはそれから受けとるべき印象に相応しいものとなっている。
表紙のディカプリオは受けたか?
売れ行きはこの理屈の正しさを裏付けている。出版社のためのリソース「ProBooks.ru」によれば、文芸作品の2013年のベストセラーTOP50には、F・スコット・フィッツジェラルドの『グレート・ギャッツビー』が、それぞれ異なる出版社から4つの版がランクインしているが、この番付作成のすぐ前に、レオナルド・ディカプリオ主演の同名の映画(邦題は『華麗なるギャッツビー』)が公開されたにもかかわらず、最も売れたのは、やはり伝統的な、アズブカの古典シリーズに入っている版で、画家ウィリアム・オルペンによるロンドンの「カフェ・ロイヤル」の絵(1912年)が表紙にあしらわれているものだった。
これに続くのがエクスモ社版であり、今や忘れられようとしている1974年の映画(監督:ジャック・クレイトン、主演:ロバート・レッドフォード)からギャッツビーのカラー写真を表紙に使っている。今上演している映画を用いたものは、やっと3位に入ったにすぎない。
実際のところ、古典作品を出している出版社が「冒険してもいいかな」と思っている唯一の分野が、この表紙なのだ。「書店はこういう本を目立つ場所に並べ、コマーシャルでその気になった客が、それに手を伸ばすという仕組み」。エクスモ社の古典文学セクションを統括するエカテリーナ・アレクセーエワさんは、こうした販売戦略をとる理由を説明してくれた。実際、売れ行きも、戦略に見合っている。
2013年に、カルロ・カルレイ監督の映画『ロミオとジュリエット』の公開後、映画を表紙に使った版は計1万5千部出たが、スタンダードな版は7千部にすぎなかった。レフ・トルストイの『アンナ・カレーニナ』にも似たようなケースがあり、2012年の映画化後、アズブカの特別シリーズ「映画を見たら本を読もう!」で、主演女優キーラ・ナイトレイの写真の表紙で売り出したところ、映画が話題に上っている間は、売り上げに好影響があった。
マンガのプーシキン
このように、映画を利用した表紙が効果を発揮するのは、映画に対する興味が盛り上がっている間だけであり、出版社としては、ふだんの手堅い売れ行きを確保する方により注力することになり、勢い、古典的装丁に傾くことになる。読者にしても、映画の写真付きの表紙に対する態度はアンビバレントだ。なにしろ、この本を家庭の蔵書の書架に並べねばならないのだから…。
おそらく今日、児童向けの古典本のデザインで最も勇敢なのはエクスモ社だろう。シェイクスピアの『ロミオとジュリエット』、プーシキンの『大尉の娘』、アレクサンドル・グリーンの『紅い帆』は、日本のマンガのスタイルで読者に提供された。
『大尉の娘』=写真提供:Press Photo
「最初から、私たちの潜在的ターゲットが小さいことは分かっていた」。同社のタチアナ・スヴォーロワ児童文学部長は語る。「この場合、買い手は、両親でもお祖母さんたちでもないことは承知していた。彼らは、こんなデザインには引き付けられなかっただろうが、我々は、こういう装丁を通じて古典のアクチュアリティーを示すことで、子供たちの注意を引きたかった」
同社によると、このシリーズの売れ行きは、他の通常のものと同様だったが、これは十分成功とみなせるという。ここでのターゲットは、人数も購買力もずっと小さいからだ。
だが、このように子供たちが喜んで映画やマンガスタイルの表紙の本を買っているのに、出版社としては、こういう実験は5点のみにとどめ、シリーズを続ける気はないという。やはり彼らは、大人の嗜好のほうを向いている。その嗜好は、何といってもかなり保守的なのだ。誰もが、古典文学の新たな出版・販売戦略が必要であることを弁えているし、口にもしているが、安定的に従来のシリーズ物で書架を満たしている購買者層を失う危険は、今のところ誰も冒したくない。
タチアナ・トロフィモワ
文学博士、Corpus出版編集者
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