ソローキンの小説を舞台化

アレクセイ・ダーニチェフ撮影/ロシア通信

アレクセイ・ダーニチェフ撮影/ロシア通信

サンクトペテルブルクのアレクサンドリンスキー劇場で、ウラジーミル・ソローキンの長編小説「テルリヤ」を原作とした舞台「テルリヤ」が上演されている。演出家はマラト・ガツァロフ。お騒がせな作家と暴れん坊の演出家という組み合わせは、劇場の新たな方向性を生みだすかもしれない。

 未来の暗黒郷を描いた小説「テルリヤ」(2013)は、全50章からなる長編だが、各章は短編としても楽しめる。ロシアが小さな公国に分裂した新中世時代が舞台。住民は国内外の文化の空想キャラクター。犬頭人、ケンタウルス、小人、巨人、正教徒、十字軍兵士など。誰もが新しいテルリヤ国の魔法の金属に幸福を求める。

 

新しい演劇の演出家

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 ガツァロフは1978年生まれ。この世代の演出家が、初めて現代的なロシア演劇を実現させていった。ガツァロフは、プレスニャコフ兄弟、ミハイル・ドゥルネンコフ、イリーナ・ヴィルコワなどの現代の辛辣な劇作家の戯曲を演出してきた。

 スタニスラフスキー&ネミロヴィッチ・ダンチェンコ音楽劇場では、スタニスラフスキーの自伝「芸術におけるわが生涯」を舞台化した、ドゥルネンコフの演劇「信じない」を演出。劇場の始まりに関するこの演劇には、スタニスラフスキー、ネミロヴィッチ=ダンチェンコも登場する。2人は同情的に描かれているが、創設者に対する敬虔さはない。

 ガツァロフは昨年、ノボシビルスクの劇場「グローブス」で上演された演劇「8月の家族たち」によって、ロシアを代表する演劇賞「黄金のマスク賞」を受賞している。そして今年、じっくりと時間をかけて準備してきた「テルリヤ」を、大舞台で披露する。

 

お騒がせ作家

 ソローキンにはスキャンダルがついてまわる。すべての作品が極めて挑発的だ。ロシアで最も存在感のあるこのポストモダニストは、1980年代から自身の短編小説や長編小説の中で食糞について描いていた。鮮明かつ多様な表現であったため、先進的な批評家や読者は批判をしなかったが、保守的な読者には受け入れられなかった。芸術的な食糞に飽きると、今度はテーマを変え、遠くない未来のロシアの終末的な暗黒郷について描くようになった。これは多くの保守的な読者をさらにいらだたせた。

 親クレムリン派の若者組織「共に進む」は、幾度となくソローキン批判を展開。2002年には文化省の建物近くで300人規模のデモも実施した。プラカードにはソローキンの作品のひわいな表現が引用されていた。ボリショイ劇場が当時、ソローキンにオペラ「ローゼンタールの子供たち」の台本を発注していたことも、火に油を注いだ。国を代表する劇場のこのような動きを神聖冒涜ととらえた。長編小説「青い脂」に多数のひわいな表現がでてくるとして、若者たちがソローキンを告訴したこともあった。また「共に進む」は同じく2002年、自分たちの本部の建物前に大きな便器を置き、ソローキンの本を投げ入れ、焼却した。このような反対運動は、かえってソローキンの本への注目度を高めた。

 

「ローゼンタールの子供たち」

  ボリショイ劇場は2005年、ソローキン台本、レオニード・デシャトニコフ作曲のオペラ「ローゼンタールの子供たち」を上演した。あらすじはこうだ。ドイツ人医師のローゼンタールがワグナー、ヴェルディ、チャイコフスキー、ムソルグスキー、モーツァルトなどの偉大な作曲家のクローンを作成する。民族主義者がドイツ政権に就いたため、医師とクローンたちはソ連に亡命。クローンは現代まで生き続け、誰にも必要とされず、浮浪音楽家にまで落ちぶれてしまう。クローンは最後に偽造ウォッカを飲み、モーツァルト以外が全員死亡する(モーツァルトには毒に対する免疫があった)。

 この演劇には、若者組織だけでなく、下院(国家会議)議員も懸念を表明。議員団は全体リハーサルを見学し、マスメディアの前で精神性の欠如を指摘。ただ具体的な措置は講じられなかった。ここでも注目度が高まり、観覧券は数ヶ月先の分まで売り切れとなった。

 モスクワでは近年、問題作の上演に関連する演劇スキャンダルが続いているが、劇場側と保守派が譲歩するようになったため、もう以前ほどの騒ぎにはならなくなった。

 サンクトペテルブルクの社会は、舞台「テルリヤ」にどう反応するのだろうか。