新旧混在か交代か

アルフストヤニエ祭=Lori/Legion Media撮影

アルフストヤニエ祭=Lori/Legion Media撮影

昨年、「下から」始まった文化のトレンド、つまり小さなクラブや書店、自分たちで開いた図書室、ストリートカルチャーなどの流れは今年も続いた。しかも、今や同じ現象がもっと「上」でも展開されている。新旧混在の状況を示した2013年。それは新旧拮抗(きっこう)を経て新旧交代への変化でもある。

今年の文化界

 今年、トップが交代した文化、学術機関は数十に及ぶ。

 一番話題に上ったのは、世界有数の美術館であるプーシキン国立造形美術館のケースだ。約半世紀館長を務めてきたイリーナ・アントノワ氏が退任し、現代美術のキュレーター、マリーナ・ロシャク氏が就任したことだ。

 ゴーゴリ・センターは古典的な作品を上演してきたゴーゴリ劇場を基に、スキャンダラスな演出で知られるキリル・セリブリャンニク氏が創設した劇場だが、本格的な活動を始めた。モスクワ芸術座やマールイ劇場といった老舗がロシア演劇界の中心でなくなって久しい。もはや、モスクワっ子を仰天させることはなくなった。

 サンクトペテルブルクの状況はもっと複雑だ。ここでは、地元の原理主義者たち(共産主義者、コサック、それに単に保守的な人や無教養な群衆)があらゆる非伝統的な試みに猛然と反対する。

 LGBT(性的マイノリティー)による映画祭「一緒に」は非常な困難にぶつかり、誹謗(ひぼう)中傷と禁止の試みにもかかわらず、どうにか開催された。

 この国では「ゲイ」という言葉は、長年悪口としてしか使われてこなかったから、この種のイベントはまれである。とはいえ、映画祭が実現したことはこの国で何かが変わりつつあることを示唆している。

 要するに、古いものと新しいものが混在している。サンクトでは、世界的に有名な演出家レフ・ドージン氏が「西欧かぶれ」で過激主義者たちによって侮辱された。モスクワでは、クレムリンのすぐ隣に、アメリカの前衛的なプロジェクトにより、公園が建設されようとしている。

 モスクワっ子はロマノフ王朝400年展に群をなして押し寄せているが、それに負けない数の人が、「ナイトミュージアム」を訪れた。この大イベントに加わった美術館の作品はごく「世俗的」で、プロパガンダ臭はない。

 クラシックな祭典がある一方で、現代的なフェスティバルもある。大衆的な映画が上映されている一方で、カルト的な人気のアートハウスがある。

 クレムリンの、スターを集めたコンサートに対して、10~20のクラブコンサートがあり、チケットはなかなか手に入らない。

 こういう新旧とりまぜた状態が現在の主な特徴だといえる。これは、一種の「戦い」と呼ぶこともできようが、正常な発展の一段階とみることもできよう。

 

建築

Getty Images/Fotobank撮影

建築今やランドアート  

 かつてはささやかなフェスティバルだったアルフストヤニエ祭は、現在では人気を呼ぶランドアートに発展した。

 場所は、モスクワから車で数時間のカルガ州ニコラ・レニベツ村。すべては建築家・画家ニコライ・ポリツスキー氏が1990年代半ばに同村に自宅を建てたことから始まった。

 次第に地元住民が次々と加わり、屋外で自然素材(木、藁、つる等)を用い、芸術的なオブジェを作るようになった。

 そして今、アルフストヤニエ祭は米国ネバダ州の「バーニングマン」に似た人気イベントとなっている。

 

短命だったが印象残す

 建築で今年一番のヒーローはモスクワの赤の広場に建ったルイ・ヴィトンの特大スーツケースだろう。

 建物は約9メートル、長さは約30メートルもある。広場に面するグム百貨店が創立120周年を迎えるのを機にパビリオンとして設置した。

 だが、完成して、覆いを取るやブーイングが湧き起こった。ブロガーや政治家は「なぜロシアの主要な広場に建てるのか」と首をひねった。 憤まんの声がクレムリンの壁の内部からも聞こえてくる事態になると状況は一変。オープンの翌日にパビリオンはさっさと撤去された。世界建築史上最も短命だったかも。

 

映画

ストルガツキー兄弟原作の空想的アンチユートピア「神様はつらい」のシーン(名匠アレクセイ・ゲルマン監督)

ロシア人の琴線に触れたヒット作

今年の主な映画 を選ぶとするとこれ。最もエリート的で商業的でかつ民衆的な3本だ。 名匠アレクセイ・ゲルマン監督は既に10年間、ストルガツキー兄弟原作の空想的アンチユートピア「神様はつらい」を撮り続けてきた。だが、今年初めに亡くなり、やはり映画監督である息子のアレクセイが完成した(だから、彼も同姓同名のアレクセイ・ゲルマンだ)。

 ロシアではまだ一般公開されていないが、11月のローマ国際映画祭でお目見えした。 映画は重苦しく、楽に見られるようなものではない。批評家も慎重に構えているが、ウンベルト・エーコは絶賛し「この映画を見ると、タランティーノ監督の作品がまるで、ディズニーのアニメみたいに見える」と手放しだ。 フョードル・ボンダルチュク監督の「スターリングラード」は第二次世界大戦の分水嶺の一つとなった「スターリングラードの戦い」を描いたもの。

 映画は最大限に愛国的で、金をかけたものとなり、ここが肝心だが、高収益をもたらしている。撮影には約3000万ドル(約30億円)を費やしたものの、封切り後わずか11日間で回収した。

 批評家は否定的で、粗雑な点をたくさん見つけ、ウンベルト・エーコもこの映画については沈黙している。

 低予算で思いがけぬ大ヒットとなったのが「苦いぞ!」。田舎の結婚式に集まった客たちが正体をなくすまで酔いつぶれるという筋だ。

 無名だったジョーラ・クルイジョブニク監督が撮ったB級映画で、テレビで人気の喜劇俳優が出演した。どうやら、ロシア人の「集合的無意識」に触れるものがあったようで、人気沸騰している。

 

 

ロマノフ王朝展

ロシア通信撮影

時間待ちの行列

  モスクワの赤の広場近くにある主要展示会場である「マネージ」でロマノフ王朝成立400年を記念して、展覧会が開かれた=写真。

 驚くのは展覧会そのものの規模よりも、反響のすさまじさだ。数時間待ちの長蛇の行列ができた。

 専門家らの分析では、国家イデオロギーが変わり、共産主義は清算されたが、新たな資本主義的イデオロギーはまだ創られていない。

 このため、多くの人はロシアと「100%結びついている」と思われる君主制と宗教に自分を重ね合わせている。

 

ボリショイ劇所

Corbis/Fotosa撮影

スキャンダルもでかい  

 今年、このオペラとバレエの殿堂はスキャンダルに揺れた。  

 世界的なダンサーであるニコライ・ツィスカリゼ氏がライバルたちを批判し、彼らから批判され、最後は解雇された。  

 バレエ団の芸術監督セルゲイ・フィーリン氏もツィスカリゼ氏を批判していたが、顔面に硫酸液を浴びせられた。ソリストのパーベル・ドミトリチェンコ容疑者が逮捕され、裁判で有罪判決が出た。

 そのフィーリン氏はプリマ・バレリーナのスベトラーナ・ザハロワをバレエ「オネーギン」の主役タチヤナから降板させた。プリマはプーチン大統領に直訴したとか。結果は、劇場総支配人のアナトリー・イクサノフ氏の電撃解任となった。

 ちなみについ最近、ボリショイを辞めた米国のバレリーナ、ジェイン・ボマク氏はフィーリン氏とその取り巻きを批判して、主役をもらうためには賄賂を払わねばならない、などと述べた。

 果てしないスキャンダルは、ボリショイの運営が危機にひんしていることを証明している。こんな条件下では、正常な芸術活動など行えるかどうか疑わしい。

 この点、サンクトペテルブルクのマリインスキー劇場は、ずっと落ち着いた状況で、5月に新館のこけら落としを盛大に祝った。