エルミタージュ美術館の展示品に、盗難された場合に海外持ち出しを防止する秘密のマークがつけられた=PhotoXPress撮影
きっかけは2006年、宝飾品基金の展示品の販売を捜査当局が発見した時。基金の保管担当であるラリサ・ザヴァツカヤに容疑がかけられたが、本人は取り調べの最初の段階で、血栓性静脈炎により職場で死亡した。盗難品の正式な評価額は1億5000万ルーブル(約4億5000万円)。捜査で盗難品流通チャンネルが探られたが、ザヴァツカヤ容疑者は発覚前にひんぱんにフィンランドに行っていたため、そこで流されていた可能性がある。
「私は盗品です」
エルミタージュ美術館の保管主任は2007年、このような犯罪を防止するために、税関用の秘密のマークを開発すると発表した。2年で終了する予定だった が、結果的に今年まで伸びた。同美術館には展示品が15万点、予備所蔵品が300万点あるため、遅れたのも当然と言える。展示品ひとつひとつにマークをつ ける手間は膨大だ。
この秘密の技術がいかにして税関で機能するかは、想像し始めたらきりがない。大きな音がなるのか、光が点滅するのか、「私は展示品3456。税関ターミ ナルにいます」というショート・メッセージ・サービス(SMS)が送られるのか...。美術館やギャラリーでの仕事経験が豊富な芸術学者のユリヤ・サラエ ワ氏によると、秘密のマークはそれほどの機密にはならないという。「以前は作品に油絵の具で所蔵品目録番号を書き、小さな作品には札をつけていた。今は作 品により優しい材料が使われているけど、番号が消えないように、という原則は同じ。番号があれば、闇市場に展示品が流れたら、盗難品だとすぐにわかるか ら」
豊かな盗難史:古典絵画からシャム双生児まで
ひとつだけはっきりと言えることがある。美術館で保管対策を強化することは必要不可欠だということ。ロシアの盗難史は、残念ながら豊かだ。ソ連時代に盗 難されていたのは、主に教会の礼拝用具。無神論政権下では教会がほとんど警備されておらず、所蔵品管理などなかったため。政府は1980年代初め、残って いた教会の文化財産の目録の作成を突然始めた。
2000年代の展示品紛失案件は、わかっているだけで、毎年50~100件ほどある。原因は主に管理不足だ。作品は美術館関係者の合意を得て持ち出されている。
普通の盗難もあった。1999年、29歳で無職のドミトリー・ルカヴィツィンは仲間と一緒に、サンクトペテルブルクのロシア美術館の1階の窓を割り、ワシリー・ペロフの絵を盗んだ。美術館の警備員は犯人に絵を返すよう求めたが、犯人は発砲して逃げた。
小さな盗難もたくさんあった。ウラジーミル州ヴャズニキ市では今年、犯人が夜中に美術館に侵入して、シーシキン、コローヴィン、ジュコフスキーの絵を盗んだ。警備員は警報機のスイッチを入れ忘れていた。アルタイ地方のビイスク市では、女が博物館に侵入し、なんとシャム双生児の胎児の入ったフラスコを盗んで捕まった。このような事件はたくさんあるが、シシキンの絵もフラスコも税関では発見されていない。
いたちごっこ
ロシアの美術品運搬会社「ファインアートウェイ」のイリヤ・ヴォリフ最高責任者は、税関を経由した搬出の防止について考えるなら、税関のハードウェアに ついて考えるべきだと話す。
「税関で行われている管理は、例えば放射線検査。すべての展示品にマイクロ・アイソトープをつけることができる。その他にあるのが嗅覚管理で、犬が爆弾や麻薬の臭いをかぎわけている。展示品に特別な成分を散布することを提案するのは理論的に可能。犯罪者にとって、マークの秘密を 知るのは難しいことではないだろうから、税関の問題を回避することは可能。それで密輸をしているわけだし。ベラルーシ、カザフスタン、ウクライナとの国境 には『ぬけ穴』がたくさんある」。つまりこれらの国々すべてで、ハードウェアを導入することも必要ということだ。
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