家庭でパンを焼く人が増加

一度おいしいパンを味わうと、自分でパンを焼くようになるか、おいしいパン屋を探すようになる=Lori/Legion Media撮影

一度おいしいパンを味わうと、自分でパンを焼くようになるか、おいしいパン屋を探すようになる=Lori/Legion Media撮影

ロシアでは、自分でパンをつくる人や、特別なパン屋でパンを購入する人が増えている。その主な理由は、パンがおいしくなくなったことや、パンがすぐに悪くなること。

おいしくて長く保存できる 

 モスクワっ子のユリヤさんは、家でパンをつくった方が良いという話を職場で聞いた。同僚らは家電のパン焼き器を購入して、気に入った様子だった。「最初は買う気がなかったんだけど、主人に説得されて購入してみたら、すごく良かった」。家庭で焼いたパンはおいしいだけでなく、保存できる期間も長いという。「1週間ずっとパンがやわらかくて、お店で買うパンみたいに3日後にカビがはえるなんてこともない。前は子供たちが全然パンを食べなかったのに、今は食べるようになった。うちに友人が集まると、スイーツよりもパンをたくさん食べる」。家でパンをつくるコストは穀粉の価格に左右されるが、店で買うのとそれほど変わらないという。「穀粉は1キログラムあたり25ルーブル(約75円)や、100ルーブル(約300円)などのものがある。でも安い穀粉でつくったパンでも、お店で買うパンよりおいしい」とユリヤさん。

 

ずぼらな人用のセットも 

 別のモスクワっ子のアンナさんは、現在のパンづくりには統一基準がないため、消費者が自分で考えなければいけないと話す。「おいしくないパンは、質の悪い穀粉、ジャガイモやでんぷん、または古いイースト菌を入れた時にできる。例えば、保管の仕方が悪い穀物からつくられた粉は、食べれるけれど、おいしいパンにはならない。今たくさんの人が自分でパンを作っているのは、材料を把握したいから」。自分でパンをつくり、買ったパンと比べてみるのが手っ取り早いという。「モスクワには良質の穀粉だけじゃなくて、イースト菌やその他のパン用の材料がすべて手に入る店がある。ずぼらな人用には、水を入れて少し待つだけで焼けるようになるセットもある。このようなセットには、穀粉、イースト菌、キャラウェー、コリアンダーが入っていて、乾燥果実が加わっている時もある」。

 

一応合格だが・・・ 

 一度おいしいパンを味わうと、自分でパンを焼くようになるか、おいしいパン屋を探すようになる。同じくモスクワっ子のスヴェトラーナさんはこう話す。「モスクワには今たくさんの小さなカフェ・ベーカリーがあるから、おいしいパンが手に入る。ただどれも市内の中心部だけど。普通のお店のパンはすぐにカビ がはえるから、買わないようにしてる」。スヴェトラーナさんは、なぜ同じ条件でつくったパンが、時間の経過とともに一方は乾パンになり、他方は腐敗してしまうのかがわからないと話す。「あんなに早く傷んでしまうってことは、カビが最初からパンにあったってことじゃないかしら」。

 しかしながら、「モスコフスキー・コムソモレツ」紙が行った実験によると、モスクワの店で販売されているパンは、すべての基準に準拠している。独立専門家協会「ロステスト」の専門家は、「サンプルの試験結果は、基準書類の要件に適合している」と発表した。

 

なぜパンは不味くなったのか 

 専門家によると、今日の製パン工程は簡略化されており、メーカーは添加物や旨味調味料を使用するようになったため、20~30年前のパンと違うのだという。さらに統一されたGOST(国家規格)の有無も影響を及ぼしている。ロシア製パン業者・製菓業者組合のユーリ・カツネリソン組合長はこう話す。「以前は製パン工場に実験所があり、パンの品質が厳しく管理されていた。現在はどの製パンも民間ビジネスになっているため、つくる側は国家ではなく、消費者に対して品質の責任を負っている」。

 ソ連のGOSTに従ったパンもつくられているものの、これは例外である。パンの安全性を管理しているのはロシア連邦消費者保護・安全監督局だが、製品の 技術条件を作成しているのは製パン業者自身である。このような技術条件には、国家の承認が必要ないため、製パン業者の幹部が管理することになる。

 モスクワでは製パン業者の競争が厳しくないため、これも品質に反映されている。味で消費者を奪い合うことがないのだ。消費者の選択肢は狭まっている。「現在はモスクワの人口1000万人強に対して、400~450の製パン業者しかいない。1917年には200万人に対して800の製パン業者が存在していた」とカツネリソン組合長。

 他に品質に影響を及ぼしている要因としては、有資格人材の不足があるという。モスクワには専門家・パン職人養成センターがない。「行政にこの問題を何度も訴えたが、まだ何の動きもない」。

このウェブサイトはクッキーを使用している。詳細は こちらを クリックしてください。

クッキーを受け入れる