インターネット、デジタル化の普及で、書籍や読書習慣をめぐる環境が変化してきている。写真はサンクトペテルブルク市に新装開店した書店。電子書籍に顧客が奪われている=ドミートリー・ツィレンシコフ撮影
同基金が公表したデータは、他の調査でも確認されている。ロシア連邦出版マスコミ局・定期刊行物・図書出版・印刷部長のユーリイ・プリャ氏は、こう語る。
「私たちもそうした傾向を見てとっています。ロシア連邦出版マスコミ局の報告書に挙げられている調査会社『TNSロシア』のデータによれば、16歳以上のロシア国民のメディア消費は一日およそ8時間で、そのうち読書はメディア消費全体のわずか1,8%(一日およそ9分間)にすぎません。たとえば、ロシアの平均的なメディア消費者がアレクサンドル・プーシキンの韻文小説『エフゲニー・オネーギン』を読むには15日以上(通算約1時間半)を要し、ニコライ・ゴーゴリの長篇小説『死せる魂』なら毎日読んでも一月半(通算約5時間)かかることになります」。
紙の本の人気は右肩下がり
とはいえ、ロシア人は読書に対する興味を失っているのか、それとも、現象の本質はべつのところにあるのか、といった判断はなかなか難しく、たとえば、全ロシア世論調査センターの3月の調査によれば、逆に、ロシア国民は本をよく読むようになっており、3ヶ月間に読む本の量が、2011年には平均3,94冊だったのに対し、2013年には4,23冊に増えている。
図書出版の量を分析することで、紙の本の人気を客観的に評価することができるだろう。ロシアでは、世界と同様、今のところ破局的ではないものの、右肩下がりに減りつつある。ロシア図書局の統計によれば、2012年、国内で出版された本の部数は、2011年と比べて12%減少した。
書店の柔軟な対応
総じて、ロシアとりわけモスクワの書店は、状況の変化に柔軟に対応している。大都市ではただ本を売るというところはますます少なくなっており、現在は、どの書店あるいはネットワークにも独自のコンセプトがあり常連の顧客がいる。
書店は、クラブ、カフェ、レクチャー室と化し、終夜営業の店、様々な専門書の店、さらには、移動プロジェクトまで現れた。たとえば、『バンパー』という児童バスは、書店であるばかりでなく、かなり本格的な教育プログラムを備えたアクティブなクラブでもある。
夏じゅう子供たちに新刊の良書を紹介しながらロシアの僻地をめぐるこのバスのモットーは、「人々が本を買いに来るのを待つのではなく、面白い良書を自ら選んで読者に届ける」というものだ。
ブッククロッシングの人気も高まりつつあり、多くの書店、クラブ、カフェに、本を交換するための棚が備えられている。
オンライン販売の増加
また、読者が指定した本を直接届けるオンライン販売の利用も増えている。これについて、ロシア最大手のオンライン・リテーラー「OZON.ru」社の書籍部門の責任者であるアレクセイ・クズメンコ氏は、ロシアNOWにこう語った。
「本のオンライン販売は増えつづけています。たとえば、2012年、弊社では、売り上げの額が30%、冊数が27%、それぞれ増加しました。しかし、主な伸びは、モスクワやペテルブルグではなく地方で見られ、まさにそこで顧客獲得競争が繰り広げられているのです」。
ソ連時代の本の虫たち
昨今、指摘されているロシア人の本離れの傾向は、ソ連人はもっともよく本を読む国民であるというかつてのイメージとかけはなれている。
ソ連時代は本がたいへん貴重だった。本は不足品であり、しゃれた服や珍味と同様、苦労して「手に入れる」ほかなかった。ソ連の本の虫たちは、辛抱づよく予約購読の順番を待ったり、20キログラムの古紙と交換に、たとえばデュマの本を購入するための引換券を受け取ったりしていた。ソ連時代の後期には、委託販売店が現れたが、在庫は少なく価格は高かった。状況が変わりはじめたのは1990年代のことだった。
消え行く蔵書
今日、現代の読者の視点で本の流通を見ると、二つの傾向に気づく。
第一に、この20年間で紙の本は文字情報の主な媒体ではなくなり、現在、多くの人が、コンピュータやスマートフォンやタブレット端末の画面で本を読み、iReaderを使用し、自動車のなかでオーディオブックを聴いている。
第二に、ロシアでは本がステータスシンボルでなくなり、ソ連時代のように稀覯本を持っていても自慢にはならない。
全ロシア世論調査センターの調査資料によれば、現在、個人の蔵書を持っている人はロシア国民の83%だが、そのうち46%の人の蔵書は100冊以下にすぎない。興味深いことに、父兄に家にある児童書のタイトルを列挙させる学校のアンケート用紙の回答欄には、たった3行しか割り当てられていないそうだ。
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