変わりゆく太平洋の領土問題

ニヤズ・カリム

ニヤズ・カリム

日本ではすべてが元通りになった。一時期を除いてずっと与党として君臨してきた自由民主党に代わり、2009年に政権に就いた民主党は、今回の衆議院議員選挙で敗退した。

新しい内閣はわかりやすく強固で、さまざまな国と良好な関係にあると考えられ、交渉のベテランという自民党のイメージは、周辺国を落ち着かせてくれそうだ。だが、前政権が苦しんだ問題を、避けて通ることはできない。住民の反対がある在沖縄米軍の今後について、アメリカと難しい協議を行わなければならないし、対中国問題はもっと大変だ。中国政府はここ2、3年、この地域でどんどん強硬な態度を取るようになってきている。

見た目は落ち着いた関係になるが… 

ロシアはアメリカや中国ほど優先的ではないものの、安倍晋三首相は選挙で勝利した後すぐに、北方領土問題を解決し、平和条約を結ぶ考えを明らかにした。首相がこのように表明したからと言って、譲歩する用意があるというわけではないから、表明の意義を過大評価する必要はない。民主党の首相、特に菅直人氏の特徴だった“衝動性”は、安倍政権にはない。

この問題についてのロシア側の対応も、より落ち着いたものとなるだろう。ドミトリー・メドベージェフ前大統領とは異なり、ウラジーミル・プーチン大統領は日本に対して“柔軟路線”の支持者であることを示した。

虚の上に虚を重ねてきた日露外交 

もちろん双方の反応は形式的なものにすぎない。ソ連政府が領土問題の存在を認めた1980年代末から、対話の中身に進展はない。

1990年代全般と2000年代一時期の「領土一色」の外交は、根本的に何も変えることなく、窮地を脱したと錯覚させるだけの、新たな形式的表現が交わされる舞台にすぎなかった。

ロシアは2000年代前半、親善を条件に、譲歩する可能性を排除しないことを何度か示した。つまり、ソ連が1956年に進めようとした決着案を、再度協議する意向があるということだ。

日本はこれに対し、日本が譲歩することはなく、その決着案よりも多くを、すなわち2島ではなく4島が返還されるまで待つことを主張したため、当時のプーチン大統領はこの問題への興味を失った。

国家の主権と威信の問題 

双方が歩み寄るためには、何が必要なのだろう。二国間関係自体には、互いを近づけるような前提条件はない。日本にとってもロシアにとっても、これらの島々は主権の問題また威信にかかわる問題、すなわち譲歩が極めて困難な国際関係の基本概念の問題である。

また、国境見直しが一般的現象となっている現状では、自発的であるか否かにかかわらず、領土問題に対するいかなる対応も、他の領土問題の前例になってしまう。ましてや領土問題の多くは第二次世界大戦の遺産であり、新たな国境線を引くことは、第二次世界大戦の結果に間接的に疑問を投げかけることにもなる。

戦略か島か 

だが、この問題をより広い視野で、地域別に見つめたら、柔軟性も生まれてくる。中国はどんどん力を増し、当然ながらロシアよりも日本にプレッシャーをかけているが、ロシアにとってもこれまで経験のない状況を生みだしつつある。

アジア太平洋地域の勢力図の変化とその影響の問題は、より明白となってきており、今ある局所的な問題に対する姿勢をも変えさせる力がある。領土問題が自然消滅することはないが、この地域を圧倒しつつある大国に対するバランスを回復する重要性と比較したら、二の次になる可能性はある。

歴史に深く根ざし、また最近までのイデオロギー的対立によって強まった、国民的コンプレックスや偏見を乗り越えることが難しいのは明らかだ。しかしながら、戦略的利益の名のもとにこれを乗り越えられる力こそが、現状に縛られる政治家と、大政治家をわけるのではないか。世界の変化の目まぐるしさを見つめながら、戦略的利益の評価もやがて変わる可能性がある、と考えずにはいられない。

フョードル・ルキヤノフ、「世界政治の中のロシア」誌編集長、外交・防衛政策会議議長